
2025年7月28日に行われたフェルディナンド・ボンボン・マルコス・ジュニア大統領の第3回「国情演説(以下SONA)」は、国会支持者からは歓迎されたものの、ダバオ地方では冷ややかな反応が見られた。
ダバオ市民の多くは失望を表明し、大統領の演説には誠意や具体的な解決策が欠けていると感じた。特に生活費の高騰やミンダナオにおける平和と開発の約束が果たされていない現状への共感が見られなかったという。
ダバオ・オリエンタル州の公立学校教師(31歳)は、匿名を条件に、「彼の演説は広報チームが作成した成績表を読み上げているようで、私たちの現実とはかけ離れている。物価上昇への明確な答えがなく、私たちは本当に困っている。必要なのは飾りではなく、具体的な指針だ」と語った。
トリル地区クロッシング・バヤバスのトライシクル(三輪バイクタクシー)運転手も、「話ばかりで何も進んでいない。ガソリン価格については明確な説明がなく、仕事についても触れられなかった。軍や真摯な和平交渉の話も無視されている。すべて見せかけのパフォーマンスに過ぎないと感じた」と同様の不満を示した。
また、匿名を希望した政府職員(24歳)は、演説のメッセージに共感できず、「テレビで見ると良さそうに聞こえるが、実際は中身がなく、期待は持てなかった。若者や教育の現状を優先すべきだったのに、数字ばかりが並べられていた。」と述べた。
取材に応じた多くの人々は実名公開を控えたが、自分たちの思いは政府が未対応の現実に根ざしていると強調した。
【希望の声も】
批判の声がある一方で、一部の政府関係者や経済界リーダーは大統領の演説のトーンや方向性を称賛した。
ミンダナオ開発庁(MinDA)長官レオ・テレソ・マグノ氏は、SONAを「改革・警戒・行動を強く呼びかけるもの」と評した。
マグノ氏は政権の業績、特に農業分野の成果を称賛し、850万人の農漁民支援、2,000kmを超える農道建設、機械化による稲作の生産コスト削減を挙げた。
さらに、ミンダナオの病院におけるゼロ・バランス・ビリング(患者負担ゼロの医療費制度)の拡大や、126億ペソを超える土地債務の帳消しが2万2,900人以上の農地改革受益者にもたらした恩恵を歓迎した。
「これらの改革は単なる政策のポイントではなく、正義であり、必要不可欠な課題である」と語った。
フィリピン欧州商工会議所・南ミンダナオビジネス協議会のトニー・ペラルタ会長は、大統領のグローバル投資家誘致への強い呼びかけを評価しつつも慎重さを求めた。
「継続的な賃上げは、競争力維持を目指す企業にとって必ずしも持続可能とは言えない」と述べ、農産物流通の不備、電力供給不足、気候変動対応力といった長年の課題への取り組みが必要だと強調した。
またペラルタ氏は、大統領の汚職撲滅の姿勢、特にインフラ分野への取り組みを支持し、政府に公共事業の全リストと費用、進捗状況の公開を求めた。
【的外れな演説】
環境団体や進歩派、市民社会はSONAが複数の緊急課題に応えていないとして批判した。
持続可能な開発を推進する「Interfacing Development Interventions for Sustainability(以下IDIS)」のマーク・ペニャルベル事務局長は、「進歩の名のもとに環境を破壊し続ける指導者に何を期待できるのか」と話し、強力な環境対策が示されなかったことに驚きはないとした。
IDISは、自然に基づく解決策(NbS)、流域管理、気候変動に強い開発についての言及を期待していたが、いずれも触れられなかった。
アクバヤン党は、大統領の汚職撲滅の言葉を歓迎しつつも、賃上げ問題、国際刑事裁判所(ICC)への復帰、ドゥテルテ家の責任追及、西フィリピン海の防衛、電子ギャンブル問題の対処など、重要課題が欠落していると指摘した。
また、マルコス政権は3年間で目立った成果を挙げていないとして、未着手の洪水対策の問題など、空約束に終わらないよう予算審議を注視する姿勢を示した。
同様の懸念を示したバヤン南ミンダナオ支部の幹事ラウフ・シセイ氏は、雇用、教育、農業の問題に対して、「大統領はフィリピンが国際社会から称賛され、世界標準に従っていると語ったが、貧しい地域や基層の実態とはかけ離れている」として、大統領が具体的な解決策を示さなかったと指摘した。
また、サラ・ドゥテルテ副大統領に対する弾劾訴追問題に触れなかったことを「部屋の象(重大な問題)に触れていない」と批判した。