【コラム】「ビサイヤ語」その1 「ビサイヤ語」という言語はありません(笑)

フィリピン言語マップ
©Shinya Sawamura

澤村信哉(さわむら しんや) 1976年生まれ、孤児院HOJ副院長。横浜国立大学卒業。 1999-2006年はフィリピン、ミンダナオ島にて、2006-2008年はブルガリア共和国ルセ市にて日本語教師として働き、教科書作成や教員育成にも注力。2008年からフィリピンに戻り、児童養護施設ハウスオブジョイの運営に携わる。現在は約20人のこどもたちと一緒に暮しながら、こどもの自立支援や就学支援のためのプロジェクトを手掛けている。 特技は20種類以上の楽器演奏と、主たる収入源でもある似顔絵描き。ダバオッチ創設者ハセガワが初めてダバオを訪問した2005年に面倒をみたのは実は私である。



フィリピンには100以上の言語があると言われています。言語学者によって、どこまで差があると別の「言語」で、どこまでの差なら「方言」なのかの考え方が異なるので、正確な数字は出せませんが、とにかく「別の島に行ったら別の言葉」「車で3時間行けば別の言葉」というくらい、いろんな言葉が飛び交う国です。

フィリピン言語マップ
©Shinya Sawamura

そんなフィリピンの言葉の中で一番有名なのは「タガログ語」ですね。タガログ語は国際的にも結構重要視されていて、各国の大学で講座が開かれたりもするような言語です。日本でも東京外語大や大阪外語大で専攻できます。実質的にこの言語がフィリピンの「国語」ですが、「タガログ語がフィリピンの国語です」って言ってしまうと、他の言語話者が気を悪くするだろう、ということで、国語は「フィリピノ語」ということになっています。実質的にはタガログ語とほとんど同じなんですけどね。東京方言を「標準語」と呼んだり、北京語を「普通語」と呼んだりするのと近い配慮ですね。

一方、ダバオ周辺で使われている言葉は現地の人たちに「ビサイヤ語」と呼ばれています。タガログ語とは文法構造は似通ってますし、比較的新しい概念の単語は共通だったりするんですが、なにしろ文章の根幹を成す動詞がほとんど違うので、これは完全に方言ではなく、別言語です。ちなみに2つの言語がどのくらい似通っているか、というのは、「どのくらい単語がかぶっているのか」などで測るんですが、その分析方法だと、タガログ語とビサイヤ語の間には、英語とドイツ語くらいの差があることになっています。