フィリピン・イーグル財団(以下PEF)とフィリピン大学ミンダナオ校(以下UP-Mindanao)フィリピン遺伝子研究センター(以下PGC:Philippine Genome Center)の研究チームは、ミンダナオ広域動物相区(以下GMFR:Greater Mindanao Faunal Region)に生息するフィリピンワシを対象とした初のミトコンドリアゲノム解析を完了した。
本研究は、国鳥であり絶滅危惧種であるフィリピンワシの保全繁殖と将来の野生復帰に直接役立つ科学的データを提供するものとなった。
全体の遺伝多様性は低いが、母系は多様
筆頭著者で、PGCミンダナオおよびUP-Mindanaoに所属するマイケル・G・バキューズ研究員によると、解析の結果、フィリピンワシ全体の遺伝的多様性は極めて低いことが確認された。
一方で、予想に反し、母系の系統は複数存在することが明らかになった。
バキューズ氏は、「母系系統を把握することで、PEFはより適切な繁殖ペアを組むことができる。すべてのヒナに可能な限り多くの遺伝的多様性を残すことが目標だ」と述べた。
NGOと大学の連携による成果
共著者であり、UP-Mindanao学長のライル・アンニ・E・ムラオ博士は、本研究が大学と自然保護NGOの緊密な協力によって実現した点を評価した。
「学生や若手研究者が、国鳥のゲノムを解析し、その知見を実際の保全活動につなげていることを誇りに思う」と語った。
約40年の繁殖努力を遺伝子が裏付け
PEFのデニス・I・サルバドール事務局長は、同財団が長年にわたり血統管理と現場経験に基づく慎重な繁殖を行ってきたと説明した。
今回の研究により、約40年に及ぶ繁殖の結果、貴重な母系血統が飼育下で維持されてきたことが遺伝学的に裏付けられたという。
「この成果は、新たに野生から導入すべき地域を示すとともに、繁殖ペアや野生復帰候補個体の選定をより的確に行う助けとなる」と述べた。
新たな遺伝資源の導入も検討
PEFは今後、今回得られた遺伝情報を国立鳥類繁殖保護区(以下NBBS:National Bird Breeding Sanctuary)の繁殖計画に反映させる方針である。
政府の許可を前提に、サマル島、パンタロン山脈、ブサ山―キアンバ、カンパリリ―プティン・バトなど、独自の母系系統を持つ地域から新たな遺伝資源の導入を検討している。
これらの系統は、将来ルソン島やレイテ島で予定されている野生復帰事業の指針となる見込みだ。
飼育個体群に残る「最後の遺伝的多様性」
研究成果は学術誌『Ecology and Evolution』に掲載された。解析対象は、PECおよびNBBSで飼育されている32羽である。
その結果、GMFR全体では遺伝的差異が非常に小さい一方、飼育下の個体群には確認された17種類すべての母系の系統が残されていることが分かった。
研究チームはまた、フィリピンワシに二つの主要な遺伝グループが存在することを確認した。サマル島や、ブサ山―キアンバ、カンパリリ―プティン・バト、パンタロン山脈では、地理的に特徴的な系統が見られ、これらの地域の重要性が浮き彫りとなった。
国の関係機関も評価
環境天然資源省(DENR)生物多様性管理局(BMB:Biodiversity Management Bureau)のマリグロ・ロサイダ・ラリリット副局長は、本研究が国のフィリピンワシ保全政策を強化するものだとして、研究チームを称賛した。
また、UPディリマン校理学部長で元PGC事務局長のシンシア・P・サロマ博士は、「フィリピンワシは国の森林を象徴する存在だ。本研究は、遺伝学が現場の保全活動を支え得ることを示している」と述べた。
ミトコンドリアDNAの役割
ミトコンドリアDNAは母から子へと受け継がれる遺伝情報で、母系の系統を調べるのに適している。
今回の研究は、ミトコンドリアゲノム解析が、全ゲノム情報が限られた絶滅危惧種においても、実践的な保全ツールとして有効であることを示した。






