澤村信哉(さわむら しんや) 1976年生まれ、孤児院HOJ副院長。横浜国立大学卒業。 1999-2006年はフィリピン、ミンダナオ島にて、2006-2008年はブルガリア共和国ルセ市にて日本語教師として働き、教科書作成や教員育成にも注力。2008年からフィリピンに戻り、児童養護施設ハウスオブジョイの運営に携わる。現在は約20人のこどもたちと一緒に暮しながら、こどもの自立支援や就学支援のためのプロジェクトを手掛けている。 特技は20種類以上の楽器演奏と、主たる収入源でもある似顔絵描き。ダバオッチ創設者ハセガワが初めてダバオを訪問した2005年に面倒をみたのは実は私である。
ちょっと旬の時期を逃した感もありますが、フィリピンでワクチンを接種した話です。 2020年3月、コロナ騒動が始まって以来、私はずっとダバオオリエンタルという田舎で引きこもっています。2020年末にはワクチンが完成した!とのニュースがありましたが、こんな「途上国」の田舎では、有力者や金持ちにしか回ってこないんだろうなあ、と思ってました。ロシアが開発したワクチン「スプートニク」が、ロシア国内で出回る前にフィリピン政府に提供されるニュースなんかもあって、うわ、人体実験場にされちゃうのか…なんて心配もしてました。 ですが、思った以上にこの地域でのワクチン接種はスムーズに導入され始めました。2021年の4月の時点で医療従事者への接種が始まり、高齢者、既往症を持つ人、エッセンシャルワーカーに順次接種を進めていく、ということになりました。
私は児童養護施設を運営しており、ここでこどもたちを育てるのは、コロナ禍だからと言って止めるわけにはいかない「エッセンシャルワーク」です。そんなわけで、なるべく早く私を含め、スタッフたちが接種を受けられるように役所に「予約」をしておきました。順番が来たらすぐ呼んでね、というわけです。
すると、数日後にすぐに連絡が来ました。「今日すぐに来れるなら3人まで受けられます」。2021年の6月始めのことですから、日本で大規模な接種が始まるより、ずっと早くに受けるチャンスが回ってきたわけです。
なんでこんなに早く?と思ったら、「当日キャンセルが多くて、保冷庫から出したワクチンが無駄になってしまうから」とのこと。つまり、順当に順番が回ってきた高齢者や既往症を持つ人が、接種に来ない事例がとっても多い、ということです。そういう事情ならありがたく接種していただこう、と、スタッフ2人と一緒に接種会場になっている小学校へ行きました。
人はまばらで、高齢者の数は少なく、40~50代が多い印象でした。普通に市場のおばさんとかも来ていて、特に「金持ちや役所にコネがある人ばかりが集まってる」感じでもなく、ちょっと安心しました。 まずはオープンスペースのジムに行って必要書類をもらい、これに手書きで名前やアレルギーの有無などを記入します。書類には「ワクチンには副反応もあります」といった説明があり「それを承知で自分の意思で接種します」という同意書もありました。ただ、すべて英語で書いてあるので、これ、ここの地元の人は読まずに適当にサインするんだろうな、大丈夫かな?と思いました。 そしたら、次に教室に10人ずつ集められて現地語で15分ほどのセミナーが行われました。現地語で、ワクチンとは何か、免疫とは何か、副反応とは何か、巷の陰謀論は科学的にはどうなのか、などをまったく医学知識のない「市場のおばさん」でも分かる言葉で説明していて、とても感心しました。
話をしてくれた方は助産師さんとのこと。なるほど、普段から医学的知識のない田舎の人に、丁寧に説明をすることに慣れている人がこの役に抜擢されていたわけです。すばらしい適材適所の采配です。 その後、身長、体重、血圧を測ってからお医者さんと3分~5分ほどの問診。ここまではスムーズでしたが、お医者さんが町に1人しかいないこともあって、どうしてもここは混みあいます。1時間くらい待って、やっと順番が回ってきました。ここで「緑、オレンジ、赤」の3グループに選別されます。健康な人は緑、高齢者や高血圧や糖尿病などの人はオレンジ、さらにリスクが高そうな人は赤、といった具合です。