家庭内での暴力的なしつけが、フィリピンの子どもが学校に通い続ける可能性を約半分にまで低下させることが、フィリピン開発研究所(以下PIDS:Philippines Institute for Development Studies)の最新研究で明らかになった。
調査によれば、フィリピンの子どもの約5人に2人が、10歳までに親から身体的または精神的暴力を受けている。こうした幼少期の被害が、その後の学校生活への関わり方を弱める主要因となっている。PIDSプロジェクト技術専門員のアーロン・カルロス・マヌエル氏は、研究成果を紹介したオンラインセミナーで、「本来、子どもの成長が最も育まれるべき場所であるはずの家庭が、恐怖と傷つきが始まる場になっている」と強調した。
全国5,000人超を追跡した長期調査
研究「Early Harm, Lasting Impact: The Effect of Parental Violence on Educational Outcomes Among Filipino Children(早期の被害、長期の影響:フィリピンの子どもにおける親からの暴力が教育成果に及ぼす影響)」は、全国の約5,000人の子どもを幼少期から若年期まで追跡した大規模データをもとに分析された。執筆者は、マヌエル氏に加え、研究専門員のライル・ダリル・カサス氏、上級研究員のヴァレリー・ギルバート・ウレプ博士である。
家庭内暴力は依然として高い割合
調査によると、10歳児の39.5%が、直近6か月に親から身体的または感情的暴力を受けていた。
この割合は11歳、12歳でもほぼ同水準で、
2回目の調査:35%
3回目の調査:34%
4回目の調査:27%
と徐々に低下するものの、高い割合が続いている。
これは、世界的に子どもの約半数が何らかの暴力を経験するという傾向とも一致する。
10歳の暴力被害が就学継続率を大幅に下げる
10歳時に家庭内暴力を受けた子どもは、14〜15歳時の学校在籍率が約50%低下することが判明した。全体の就学率は依然高いものの、学校に通っていない少数派の多くが、暴力被害経験者である。
マヌエル氏は、「例えば1,000人のうち就学率は96%と非常に高いが、就学していない子どもの多くは暴力を受けた子どもである」と説明した。男女ともに影響を受けるが、統計的には男子の方が影響が強い傾向も示された。
また、暴力を受けた子どもは、小学校入学時点で学力に遅れがある傾向を示しており、特に数学、読解、理科の基礎学力が低い割合が約4人に1人に及び、平均IQも低めであるという。その後の学業成績もやや低めの傾向が続くが、その差は統計的に有意とはいえない程度である。
暴力の測定方法を改善し、支援強化を
討論者として登壇した、サンカルロス大学人口研究室(University of San Carlos-Office of Population Studies)客員研究員のアレハンドロ・ヘリン博士は、フィリピンにおける暴力の測定方法は改善の余地があると指摘した。現行の調査票では、法律や国際基準に含まれる「意図性・繰り返し」といった重要な要素が十分に捉えられていないためである。
また、家庭内暴力だけでなく、
- 同年代からのいじめ
- 大人からのいじめ
- クラス内の対人暴力
など、複数の暴力要因をあわせて検証する必要があると述べた。研究チームは、暴力防止と被害児童への支援体制を強化する必要性も強調した。
ポジティブ・ペアレンティング・プログラム(前向きな子育て支援)や、学校を基盤としたプログラム、地域の支援ネットワークを組み合わせた早期介入の重要性を示した。
マヌエル氏は、「効果的な対策には、社会福祉開発省(DSWD)と内務地方自治省(DILG)の主導による複数分野の連携が不可欠でです。暴力が子どもの学習に与える影響をより深く把握するため、データシステムを強化すべきでしょう」と述べた。






