
ダバオ・デル・スールの霧深い高地、山々の樹冠に包まれた土地で、静かな変革が進行している。長年にわたり、この地域の農家たちは、気候変動や害虫、脆弱なインフラ、低迷する市場価格といった困難に直面しながらも、忍耐強くコーヒー栽培に取り組んできた。そうした彼らの努力が今、科学と技術の力によって、新たな希望へとつながり始めている。
その希望の象徴となるのが、2025年2月20日に南ダバオ州立大学(以下DSSC)に開設された「南ダバオ州立大学地域コーヒー・イノベーション・センター(以下RCIC)」である。このセンターは、研究、研修、品質評価を通じてコーヒー農家を支援することを目的に設立され、州の農業遺産に根ざした持続可能な未来のビジョンを体現している。
RCICの始まりは、農家が自らのコーヒー豆の品質を評価・向上できるよう支援するための、小規模なカッピングラボだった。このラボは、ACDI-VOCAの支援により設立された。2022年には、科学技術省(以下DOST)が全国的に進めるイノベーションセンター設立プロジェクトの一環として、DOST第11地方事務所がDSSCと連携し、ラボの機能強化に取り組んだ。この協力により、施設は本格的なイノベーションセンターへと進化し、ダバオ・デル・スールのコーヒー産業における研究、学び、価値創出の拠点となった。
DSSC、DOST第11地方事務所、ACDI-VOCAの強力な連携に加え、他の政府機関や開発機関からの支援も受けて、RCICはこの地域におけるコーヒー生産の発展を支える重要な拠点となっている。
DSSCのオーギー・E・フエンテス学長は、「私たちのビジョンは、新たな技術革新を通じて農家の暮らしを向上させ、地域社会を強くするコーヒー産業の実現です」と語った。
1,200万ペソを投じて整備されたこの施設では、コーヒーと科学が実践的かつ意義深い形で融合している。センター内には、感覚評価ラボが設けられており、農家は自らの豆を持ち込んで等級の判定を受けることができる。「カッピング」と呼ばれる手法を用い、訓練を受けた評価者が豆の品質を評価し、それが商業用かスペシャルティグレードかを判定する。スペシャルティコーヒーとは、80点以上の評価を受けた豆のことで、国内外の市場で高値で取引される。
フエンテス学長によれば、州内の多くの農家はすでに優れた農業慣行を実践しており、スペシャルティ品質の豆を生産しているという。しかし、これまで彼らにはその品質を検査・証明する手段がなかった。それを今、RCICが補っている。
DOSTによる継続的な支援の一環として、センターにはロースターとグラインダーが設置されている。さらに、アグトロン社の色彩選別機やエスプレッソマシンなどの追加機材も導入予定であり、農家や小規模事業者の加工能力が一層強化されることが期待されている。
「DOSTのプログラムを通じて、私たちは科学を現場に近づけることを確実にしています。このような施設があることで、地元の生産者たちにも高付加価値市場で公平に競争する機会が生まれます」と、DOST第11地方事務所のアンソニー・セイルズ所長は語った。
RCICは、単なる研究施設や加工拠点ではなく、学びと体験の場でもある。センター内には研修室、コーヒーショップ、そしてダバオ・デル・スールにおけるコーヒーの歴史を伝える博物館が併設されている。訪問者は、「シード・トゥ・カップ(種から一杯のコーヒーまで)」の旅を体験し、植え付けから収穫、焙煎、テイスティングに至るまでの一連の工程をたどることができる。
RCICの責任者であるレジー・パタグック博士は、この体験型のアプローチこそが重要だと考えている。
「人々は、一杯のコーヒーにどれほどの工程と労力がかかっているかを知るべきです。その背後にある科学や努力を理解することで、コーヒーそのものだけでなく、それを生産する農家への理解と敬意が深まるのです」と彼は語った。
フィリピンは、コーヒーと長い歴史を持つ国である。1880年には、世界第4位のコーヒー輸出国だった。しかし、1894年にはコーヒーさび病が広がり、多くの作物が壊滅的な被害を受けた。現在、私たちはその再建の道を歩んでおり、そこでは科学が中心的な役割を果たしている。
フィリピンは、ロブスタ、アラビカ、リベリカ(バラコ)、エクセルサという4大品種すべてを栽培できる、世界でも数少ない国のひとつだ。その中でも、ブレンドやインスタントコーヒーに使われるロブスタ種は最も一般的で、国内生産の約70%を占めている。
2023年の第2四半期だけでも、フィリピンは2,770トンのグリーンコーヒー豆を生産し、前年同期比で1.8%の増加を記録した。ダバオ地方は、バンサモロ自治地域(BARMM)、ソクサージェン地域とともに、この総生産量の70%以上を占めている。
DOSTの支援と地元農家の努力によって、RCICは研究、品質検査、技術研修といった不可欠なリソースを提供し、農家が収量を向上させ、世界市場で競争力を持てるよう後押ししている。この協力体制は、持続可能なコーヒー産業の発展に向けた基盤を築くだけでなく、新たな世代のイノベーターや起業家の育成にもつながっている。
RCICは、この変革の中核的存在であり、研究、革新、そして地域の専門性を融合させている。ダバオ・デル・スールのコーヒー産業を単に成長させるのではなく、力強く発展させ、農家、消費者、そして国全体にとって、より明るい未来を「淹れる」役割を果たしている。