【特集】 ドゥテルテ大統領の365日 後半 ~ ドゥテルテ大統領1年の軌跡 その4~

ドゥテルテ大統領

特集としてお届けしてきた「ドゥテルテ大統領1年の軌跡」では、1回目にドゥテルテ政権の成績表として国民からの評価を、2回目はドゥテルテ政権1年の数字として、現政権の年間実績をお伝えした。最終回となる本稿ではドゥテルテ大統領の365日前半から引き続き、ドゥテルテ大統領関連の報道や同氏の発言を時系列で記載し、2017年1月から6月の軌跡を辿る。

※編集部の独断と偏見で、ドゥテルテ氏らしい政策や発言、重要項目だと思われるものは太字にしてあります。

2017年
1月6日
マニラに寄港中だったロシアの対潜水艦と海上タンカーを訪問。「ロシア海軍はもっとフィリピンに来てほしい、同盟国としてフィリピンを守って欲しい」と発言。

1月9日
600万人の女性が地方自治体からコンドームを無料で受け取るための大統領令に調印
フィリピンでは2003年から政府とUSAIDの共同プロジェクトにより、市民が地方自治体を通して、コンドーム等の避妊具を無料で受け取れるシステムが、仕組みとしては存在していた。しかし役人や公務員の汚職で、仕組みが周知されず避妊具は横領されるなどの理由から、実際は市民に届いていないという状況が続いている。国の調査によると、フィリピンでは600万人の女性が避妊具を手に入れられない環境におかれていると報告されており、そのうち少なくとも200万人は貧困が理由であるという。これを解決するためドゥテルテ氏は大統領令に調印。対象に指定されているそれら600万人の女性が無料で避妊具を受け取れる状態を目指している。政府は人口増加が貧困問題を加速させるとの認識から、2015年に21.6%であった貧困率を、大統領の任期が終わる2022年までに13~14%まで引き下げたいとしている。

1月10日
フィリピン社会保障システム(SSS)が支給する年金額に関して、退職者の月額受給額を増加させる法案を承認。

1月12日
安倍首相がフィリピン・ダバオを訪問。マニラにも2日間滞在し、大統領との会談や経済フォーラムなどに参加した。滞在時間はマニラよりダバオのほうが長く、大統領の自宅にも招待された。

1月14日
ダバオ市で行われたスピーチの際、「これ以上麻薬問題がひどくなるようなら、戒厳令発令も辞さない」と発言。

1月30日
突如、国家警察による麻薬撲滅対策の一時停止を命じる。また、警察の麻薬対策部門の解散を命じ、今後はフィリピン麻薬取締庁(PDEA)が、軍の支援を受けつつ、麻薬取締業務を引き継ぐことを決定した。これは、麻薬犯罪捜査部門の警察官が、韓国人ビジネスマンをケソン市のフィリピン国家警察の本部内で誘拐恐喝目的で絞殺した、という事件に端を発している。デラ・ローザ国家警察長官によると、大統領は前日の会議で「フィリピン警察は芯まで腐っている」と発言したという。また記者会見で、就任前に6ヶ月で終了する計画であった麻薬撲滅対策を、「大統領任期の最後の一日まで延長する」と話した。

2月8日
元コロンビア大統領で経済学者のセサー・ガヴィリア氏が、ニューヨーク・タイムズ紙でドゥテルテ紙の麻薬撲滅運動を批判したことについて、内務省の第115回記念式典で「コロンビアのアホが俺に講釈を垂れやがる」と発言。

2月24日
包括的危険薬物取締法違反の罪でレイラ・デ・リマ上院議員が逮捕される。同氏は司法長官でありながら麻薬密売者から多額の賄賂を受け取ってあらゆる便宜を図っていた。しかし、デ・リマ上院議員がドゥテルテ大統領の麻薬撲滅戦争批判の急先鋒に立っていたため、国際ニュースでは大統領側の謀略であるかような主旨の報道が目立った。

3月1日
気候変動に関するパリ協定の合意書に調印。ドゥテルテ氏は以前「パリ協定は狂っている」と評していたが、閣僚の意見がほぼ一致していたため合意を決めたという。

3月19日~ 22日
ASEAN諸国表敬訪問の一貫でミャンマーとタイを訪問。

4月10日~16日
百万人以上のフィリピン人海外労働者の就労先であるサウジアラビア、バーレーン、カタールを訪問。

4月29日
マニラで行われた第30回東南アジア会議に議長として参加。

5月11日
カンボジアの首都プノンペンで行われた「世界経済フォーラムASEAN」に参加し、若者と社会の未来を破壊する麻薬をASEANから一掃したいと協力を呼びかける。

5月15日
北京で行われた習近平国家主席との二国間会議で、中国との領海問題において平和的解決を望んでいると伝え、意向の再確認を行った。領海問題に関しては就任前から国内では過激発言を繰り返していたが、就任後は中国とは冷静に対話を続けている。また同時に中国との武器売買に関する合意書に調印。

5月16日
フィリピン全土で喫煙所の範囲を指定するなど、公共の場での喫煙に関する基準を定める大統領令に調印。これには未成年の喫煙、売買の禁止、未成年者が集まる場所から半径100メートル以内でのタバコの販売禁止などを定めている。

Source of photo: Presidential Communications

5月22日
ロシアとの防衛協定を締結するためロシアを訪問。

5月23日
ミンダナオ島南ラナオ州マラウィ市で過激派組織イスラミックステート(IS)に関与するとされるミンダナオのイスラム系武装組織マウテグループとフィリピン国軍との間で戦闘が起こり、これを受けてミンダナオ島全域に60日間の戒厳令を布告

5月24日
戒厳令対応のためロシアからフィリピンへ緊急帰国。同行していたカエタノ外相が現地に残り、ロシアのラブロフ外相と協議を進める。

5月29日
ロシアとフィリピンが、防衛や安全保障、貿易、核エネルギーなど10の分野で協定を結んだと発表。

6月5日
前日4日に発生した首都圏近郊のパサイ市のホテル「World Resort」カジノでの襲撃事件に関して、ホテルを訪問。犠牲者の通夜にも参加した。ISISは事件への関与を発表したが、フィリピン当局は否定している。

6月15日~20日
大統領が休暇を取っていることなどから、健康状態が良くないという多数の報道が行われる。

6月19日
マラウィの事態が収束しない現状から、2017年末まで戒厳令を延長するよう上院に呼びかけていると発表。

6月20日
会見で、戒厳令に関して「ISISのテロリストを一掃するためには他に選択肢がない。許してほしい。引き裂かれたマラウィ市を復興する。」と頭を下げた。

【まとめ】

こうして時系列で見てみると、ドゥテルテ氏の就任1年目は、貧困や経済などの諸問題にも目を向けつつも、主に治安と外交に力を入れていたことが分かる。しかしながら「治安を最重視する」というドゥテルテ氏の市長時代からの哲学は一貫しており、麻薬犯罪撲滅を推進してきた警察の汚職が手を付けられないレベルまで悪化していると判断するなり、警察庁の麻薬対策部門を軍部に引き継がせたり、マラウィの戦闘が始まるや否やロシアから緊急帰国して戒厳令を発令したりと、即断即決で行動している。

戒厳令発令の影響で、5月末以降はメディアへの露出や、スピーチなどがめっきり減ったが、7月7日に報告されたCNNニュースによると、大統領支持率は78%と相変わらず高い水準を保っている。アメリカとはうまく距離をとり、ロシア、中国とはこれまでの大統領にない新しい関係を築き始めた。

戦闘の続くマラウィ市に関しても、ロシアから兵器、中国から軍事資金、アメリカからは人道支援物資を得ている。大統領としての初年度を一行で締めくくるらば、「国内の問題をうまく外交に利用してゆくという独特の政治手腕を身につけた」一年であった、と言えるのではなかろうか。大統領の2年目はどのような動きになるのか。日本ではいまだ暴言王と揶揄されるフィリピン大統領に、これからも目が離せない。