先日、ダバオッチ編集部では「ドゥテルテ政権の成績表」として、フィリピン民放テレビ局ABS-CBNから発表された現政権の政策項目別の支持率を取り上げた(元データは統計調査NPOのSNS調べ)。
今回の「ドゥテルテ大統領1年の軌跡 その2」では、ドゥテルテ政権1年の数字としてドゥテルテ政権関連で2017年6月~7月に発表されたデータを中心に、まとめてお伝えする。
※複数のソースのデータを列挙しており、データの正確性に関してはニュースの配信日時等によって揺れがございますので、あくまで目安としてお読みください。
【犯罪・治安・麻薬関係】
ドゥテルテ大統領は就任前から3~6ヶ月でフィリピンから犯罪を激減させると公言しており、犯罪撲滅計画のために、まず警察力の増強を実施するとのマニュフェストを掲げた。犯罪発生率に関しては2016年は前年度比から13ポイント減少している(国家警察庁調べ)。
また警察組織内部の汚職が犯罪増加、麻薬問題を助長しているとして、3年以内に警察官の給与改善を行うとも述べていたが、2017年9月からこちらも実施される。その他緊急連絡ホットラインである911の全国化や、市民苦情ホットラインと苦情センターを制度化(共に2016年8月1日施行)しており、順調に公約を実施してきていると言えるだろう。
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- 2016年犯罪発生率:13%低下(前年比)
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- 麻薬押収総額:825億ペソ
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- 過去12ヶ月で押収された覚醒剤の量:2,446キロ、126.2億ペソ相当
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- ドラッグ対策オペレーション件数:63,926件
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- 麻薬関係者逮捕:86,984人
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- 麻薬使用者、売人の自首:1,308,078人
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- ドラッグ対策オペレーション中の麻薬関係者の死亡数:3,151人
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- 政府関係者の麻薬への関与による逮捕数:302名(役人142名、議員135名、制服職員23名等)
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- 解体された麻薬製造工場・アジト:152ヶ所
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- 首都圏が安全になったと感じる人の割合:首都圏在住者の82%
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- 麻薬取引に関与する政府関係者の氏名を公開:数百人
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- 麻薬リハビリセンターの建設:各地数十ヶ所(首都圏20ヶ所以上、巨大麻薬リハビリセンターの建設1件を含む)
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- 殺人事件9,432件のうち少なくとも1,847件が麻薬がらみの事件
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- 市民の兵士への信頼度が1988年以降過去最高に:75%
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- マウテのテロリスト死亡数:379人
- フィリピン国軍兵士、警察官のインセンティブ引き上げ額:2,000ペソ
【外交・各国からの支援】
大統領就任前には外交政策に懸念があるとされていたドゥテルテ政権ではあるが、蓋を空けてみれば、1年目で中国、日本などから巨額の資金援助を受け、ミンダナオのテロ対策ではロシアからの兵器支援、アメリカからの支援も受けるなど、半ばテロ、戒厳令などの国内問題をうまく利用しているかようにすら見える。またアメリカや国連に対して過激な発言を繰り返すたびに国内の政権支持率は上昇している。結果として強かな外交になっている。
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- ドゥテルテ大統領が海外から獲得した投資:1.77兆ペソ
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- 中国からの軍事支援、軍備品等:5億9000万ペソ相当
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- 日本からのODA等、5年間で1兆円、海上合同軍事演習
- ロシアとの防衛協定締結、兵器提供、海上合同軍事演習
【経済関連】
ドゥテルテ政権下の経済成長率は依然上昇中である。フィリピンへの渡航者も増えた。また、大統領就任前は海外労働者(OFW)を減らしていきたいという意向であったが、逆に優遇措置を実施するなど、OFWの経済効果的側面を重視した結果となっている。
BPO産業全体の売上高がOFWからの送金額よりもが高くなっているなど、経済成長寄与項目の順序入れ替えは起こっているものの、OFWからのフィリピン送金額は、2017年初旬の前年度同期比較で8%増加している。フィリピンは人口ボーナスが続いており、また大統領就任前からフィリピンがすでに投資によるドリブン期(消費による経済成長寄与よりも投資による寄与がメインになっている)に入っていたことから、アキノ政権時代に作られた成長軌道に乗ったかたちになっているという見方もできるが、新政権でもその勢いが止まらないのは評価すべきところだろう。
また大統領のお膝元、ダバオ市では既に導入されていた、役所の許可手続きの簡易化、効率化に関しても、各省で着実に進められている。こういった施策はビジネスセクターへの投資呼び込みの追い風になる。
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- 経済成長スピード世界ランキングが上昇:世界第10位
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- フィリピンへの渡航・旅行者数の増加(前年5月比):19.60%:前年度445,449人、今年度532,757人
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- 国家経済開発庁の17の新主要プロジェクト承認額:3920億ペソ
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- フィリピン海外労働者への優遇・無償化:旅行税、空港使用料0ペソ
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- 海外就労者用の一括サービスセンター建設:15州
- 内務省の事務手続きの簡略化、証明書取得等にかかる時間の是正:3~5日
【貧困、復興支援など】
麻薬戦争、テロや戒厳令などのニュースにかき消されてあまり目立たないが、貧困、復興・教育・環境などに関しても、大きな動きが見られたのでいくつか取り上げた。3年経っても改善が見られない2013年に起こったヨランダ台風被害難民に関しては、急速な再定住地開発を行い対応した。
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- フィリピン総合病院の患者のために寄付:1億ペソ
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- 貧困層への薬品配布予算:20億ペソ
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- 北スリガオ州地震被害への支援金:20億ペソ
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- ヨランダ台風避難被害民のうち政府が提供した再定住地へ移住った人数:49%、3965人
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- 環境問題関連で業務停止命令を受けた掘削事業者:23社
- 国公立大学の無償化:77.8億ペソを導入(経済的問題のある学生など部分的に無償化)
【まとめ】
こうしてみると2017年のドゥテルテ政権は、多少の軌道修正は認められるものの、政権発足前に公約として掲げていたことをほぼ実施してきていると言えるのではないだろうか。そもそもドゥテルテ氏は「治安を安定させれば全てが変わる」という信念の持ち主であり、犯罪・テロ対策が初年度の活動の大部分を占めるのは当然とも言える。
次回、「ドゥテルテ大統領の365日 2017~ ドゥテルテ大統領1年の軌跡 その3~」では、同氏の年間活動を大統領就任直後の7月から振り返る。