澤村信哉(さわむら しんや)
1976年生まれ、孤児院HOJ副院長。横浜国立大学卒業。
1999-2006年はフィリピン、ミンダナオ島にて、2006-2008年はブルガリア共和国ルセ市にて日本語教師として働き、教科書作成や教員育成にも注力。2008年からフィリピンに戻り、児童養護施設ハウスオブジョイの運営に携わる。現在は約20人のこどもたちと一緒に暮しながら、こどもの自立支援や就学支援のためのプロジェクトを手掛けている。
特技は20種類以上の楽器演奏と、主たる収入源でもある似顔絵描き。ダバオッチ創設者ハセガワが初めてダバオを訪問した2005年に面倒をみたのは実は私である。
フィリピン植物シリーズ、私の趣味で薬草やら竹やらを先にやりましたが、普通に考えてまずやるべきは「ヤシ」ですよね。というわけで、今回は満を持して、ミンダナオ島の東の方の地域で、ヤシがいかに生活に密着しているかを紹介したいと思います。
あるものが生活に密着しているかどうかは、「それにかかわる単語がいかに細分化されているか」で分かります。たとえば日本人は「稲」と「米」と「ごはん」を呼び分けますけど、英語ではこれ、全部「rice」です。逆に英語圏では「Wheat」「barley」「Rye」「Oats」とそれぞれ固有名がついたものが、日本では「麦」と総称され、言い分けるためには「小麦」「大麦」「ライ麦」「燕麦」のように言葉を重ねる必要があります。こういう例は世界中にたくさんあって、北極圏に住むイヌイットの言語では雪は状態や用途に合わせ、何十種類もの名で呼び分けられるなんて説もあります。
さあ、これを踏まえて、ビサイヤ語のヤシにまつわる表現を見てみましょう。するとまあ、出てくる出てくる!ルビ、ボトン、ルカイ、パルワ、トコッグ、タコン、プサウ、トゥバ、ボノット、バゴル、トノ、ブワ…。日本語だと「ヤシの葉」「ヤシの若い実」「ヤシの実の殻の繊維質部分」「ヤシの葉の芯の部分」のようにそれを指し示すのに何語もつなげなければならないようなものに、それぞれ独立した1語の名前がついてるんです。詳しくは以下の図をご参照ください。