【Business】フィリピンで成功する企業風土とその戦略

フィリピンで成功する企業風土

企業のあり方を表す言葉に「企業文化」と「企業風土」というふたつの表現があります。前者の「企業文化」は主に企業の枠組みづくりであり、目標、ビジョンや戦略に裏付けられた仕組みを指します。トップダウン、ボトムアップ、ホラクラシー経営、垂直型組織、リーンスタートアップ、マネジメントの方法論など、これらは全て企業文化を形づくるものです。一方後者は、人間関係を土台として、社員一人ひとりが感じている会社の姿からつくられる社風(=会社の風土)を指します。

両方とも重要な要素ですが、フィリピンでの企業運営にはこの社風づくりで失敗するケースが非常に多いように感じます。さらに言えば、そもそも日本とはお国柄が全く違う外国での経営をしているにもかかわらず、フィリピン人の風土にあった社風づくりに力を入れていない企業がほとんどであるように思います。

今回は弊社や私が関わっている企業の実践を例に、フィリピンで重要だと思われる企業風土についてお伝えします。風土づくりはまさにソフトな部分であり、量的データを取りにくいのですが、実例を紹介して考えを述べさせていただこうと思います。

筆者プロフィール

三宅 一道(Ichido Miyake)

ミンダナオ日本人商工会議所
会頭

株式会社クリエイティブコネクションズ&コモンズ
取締役/Founder

ピスタシア株式会社
取締役/Co-Founder

20代半ばまでギタリストとしてバンド活動を続けていたが、バンド解散後、「海外で生きるって何となくイケているよね」という程度の軽い考えで、2001年にフィリピン・ダバオ市に移住。

ダバオでは周囲の素晴らしい人々の親切により、市内の日本語ボランテイアに関わるようになり、そのまま日本語教師としての道を歩み始める。その後は途中調子に乗りすぎて首になったりもしながら、インターナショナルスクールや大学の日本語教育に10年間携わる。後半5年間はミンダナオ国際大学の日本語センター長として、日本語教育システムの改善を行うとともに、教材作成、スピーチ指導(5年連続フィリピン弁論大会優勝)、日本語ラジオ番組の制作、音楽を使った日本語教育など多岐に渡る日本語教育を実践。

教え子である日本語人材に雇用を提供するため、2012年にパートナーの長谷川と共にCreative Connections & Commons Inc.、2015年にPistacia,Inc を立ち上げる。2018年からはミンダナオ日本人商工会議所の会頭に就任。日系企業のミンダナオ島、ダバオ市への誘致を積極的に進めている。

1. スタッフの家族を大事にする風土

会社のクリスマスパーティー

フィリピン人は家族との時間を非常に大切にします。家族イベントへの参加が義務化されていると言っても過言ではありません。家族行事であるクリスマスパーティーや、ファミリーリユニオンと呼ばれる里帰り、家族親戚の誕生日会などなど、年間を通して多くのイベントがあります。参加しない人は白い目で見られます。

またフィリピンでは、若者でも収入のほとんどを親に渡している人が少なくありません。下の世代が、結婚して自分の家族を持つ前から家族を支えています。今後徐々に核家族が増えていくと思われますが、フィリピンはまだまだ大家族が主流です。大家族で世帯収入が少なく、就業率が低いことから若いうちから家族を支えるのが常識なのです。

このような状態ですから、家族観・仕事観は日本とフィリピンでは全く違います。少し一般化しすぎであるきらいはありますが、フィリピン人の個人の人生は、家族の人生の一部であると認識すると現在のフィリピン人の家族観が理解しやすいかもしれません。

また仕事に関しては、未婚の新卒でも家族のために仕事をしているため、やりがいよりも賃金が優先されます。ただし基本的に大家族であり、家族を支えているのは自分ひとりでないため、状況によっては周りに頼りやすい(甘えやすい)環境だとも言えます。そのため、職場環境のストレス度が高いなど、状況によっては逆に相談して家族が納得すれば、仕事を辞めやすい環境です。

辞めてしばらくは、兄弟やあるいは親戚など別の人の収入に頼りながら、自分は休暇をとって新たな仕事を探す、ということが常識的に行われています。ただ、あまり長く休むと家族のメンバーに負担がかかるため、最大半年程度で次の仕事に移ることが多いです。

上記を踏まえて実施すると効果があるのが、会社としてスタッフの家族を大事にする風土づくりです。これは「会社は家族である」とか「従業員は家族という考え方はブラック」などという次元の話ではありません。

企業の一員であるスタッフが最も大事にしている「家族」を、企業として具体的に大切にするということです。また、この文脈においては、特にフィリピンでは社員を家族のように大切にする、社員は家族のメンバーと同じであるという意思表示には意味があります。

弊社ではスタッフの家族の状態を聞く機会を設けたり、家族イベントに関しては理解を示してルールを作ったりして、会社としての意思表示を行なってきました。

インセンティブも用意し、家族が金銭的に困ったときに借りられる社内ローンをつくったり、業績が上がれば家族旅行がプレゼントされるなど、様々な実践を試しました。また、社内でもできる限り家族的なイベントを増やします。

具体的には、バーベキューや小さなパーティーなどを頻繁に行い、誕生日のスタッフがいれば、ケーキやピザを買ってくる、誕生日のお祝いメッセージを伝える、などが挙げられます。

またクリスマスパーティーは年間で一番重要な家族イベントであるので、会社でもクリスマスパーティーは必ず開きましょう。イベントには可能であればスタッフの家族も招待することをおすすめします。

私の経験では、仕事に自信が持てず会社を辞めることを考えていたスタッフが、両親からの励ましによって意識が変わり、その後マネージャーになったことがありました。

スタッフの家族を味方につけることは、離職率を下げることにも繋がります。私は相手の了承が取れれば、可能な場合は面談時から家族についての質問をしています。「スタッフの家族」はフィリピンの企業経営では非常に重要なキーワードなのです。

2 言語の壁のない風土

弊社では過去に多数のフィリピンの起業サポートをしてきましたが、言葉ができない人の起業失敗率はできる人の数倍にも上るように思います。

言語能力の不足によって情報の収集先が極めて限定されてしまうということが、起業後の大きなディスアドバンテージになります。そのため言語の壁をどこまで取り除けるかが、非常に重要なポイントとなります。双方の業務上のコミュニケーションのためには英語は必須ですが、現地語の習得や、フィリピン人スタッフへの日本語教育も効果的です。

弊社の場合も、フィリピン人スタッフには日本語教育を、また経営陣は英語及び現地語を習得しています。業務に関しては英語のみでもちろん問題ありませんが、可能であれば現地語を学習することをおすすめします。その理由は、フィリピンにおける英語と現地語の「使い分け」、TPOの違いがあります。

大雑把な分け方ですが、英語は業務上の書き言葉に用いられ、どちらかといえば権威を示す言葉です。契約書や法定文書などもほぼ英語です。一方、現地語は日常会話、インフォーマルな場面での業務上のやりとりに使われます。

 

簡単に言うと、英語はフォーマル、現地語はフレンドリーな表現と考えれば良いでしょう。ですからスタッフと距離を縮めたいと考えている場合には現地語の習得は非常に効果を発揮します。

マネジメント陣が英語だけでなく現地語の習得に積極的な姿勢を見せることは、スタッフに対してマネジメント陣が歩み寄りを見せる行為とも言えます。

英語では話しにくいことも、現地語では話しやすかったり、スタッフがオープンになってくれたりという効果もあります。

さらにスタッフ同士が話している内容から発見があったりと、弊社でも思わぬ効果がありました。またマネジメント陣がスタッフから学ぶという姿勢も絆づくりには非常に有意義なのではないでしょうか。

ビサヤ語への最初の取っ掛かりとしてこちらの記事をお読みください。

【特集】超簡単!使えるビサヤ語をスクショして持ち歩こう!

弊社で言語学習促進のために以下のような工夫をしています

言語学習促進のための工夫
1. 有志で日本語、現地語等のクラスを開講する
2. 朝礼・日報などに部分的に対象言語を導入する
3. 言語学習の小さな課題を設ける(自己紹介を対象言語で行ってもらうなど)
4. フィリピン人スタッフを対象に日本への留学制度を設ける
5. 社内チャットにGoogle翻訳APIを組み込み、翻訳を自動付加(まだまだ機械翻訳の制度には問題があるので業務上のやり取りでなく会話を楽しむために利用する)

3. 叱責しない企業風土

忘年会

フィリピンでの事業などについて書かれた資料やウェブサイトを閲覧すると、往々にして、「フィリピン人はプライドが高いのでみんなの前で怒ってはいけない。逆恨みされて大変なトラブルに発展することがある。」というような注意書きが見られます。

しかしながらこれに関しては大いに首をかしげるところです。そもそも「人前で叱責してもよい」という風土は最近騒がれているパワハラが横行する日本独特のもので、他国では通用しないと考えるべきではないでしょうか。

人前での叱責に関しては、他国の情報を調べてみると以下のような注意書きが多数見つかります。

● 優秀なマネージャーは人前でスタッフを叱責するような行為はしない
● 人前でスタッフを叱る行為はプロフェッショナルでないと考えられる
● 問題の言及は特に締め切った空間で行うこと
● 叱責の本質は脅しである
● 人前でのパワーハラスメントで訴訟が起きた場合、敗訴の要因となる

 

人前で叱責して恨みを買ってしまい、その後どうなるかに関してはお国柄で色々と事情は異なることでしょう。しかし、恨みを買わないまでも、落胆させてしまい、モチベーションの低下を引き起こす場合もあります。更に他の社員への影響も考えるべきです。

自分以外の誰かへの叱責を聞くという無駄な時間、不快感を直接関係のない社員にも与えることとなります。職場環境においての人前での叱責行為は、日本を含めどこであっても、「百害あって一利なし」と言わざるを得ません。

それではフィリピンではどうすればよいのか。私としては、叱責しないのが正解だと考えています。

非常に深い信頼関係ができている場合は別として、叱責するのではなくこちらから歩み寄ることが大切です。

逆に言えばそのなかで信頼関係を築いていくということかもしれません。フィリピンでは特に、「誰がではなく何が問題なのかを一緒に考えてともに成長しよう」というスタンスが問題の再発防止に最も効果的であると思われます。

4. 遅刻しない企業風土

フィリピン人は時間が守れない国民性である。さて、これは果たして真実でしょうか?

ウェブサイトをブラウズすれば、「フィリピン人は遅刻が多くいわゆる『フィリピンタイム』で動いているので遅刻は避けられない。風土が違うからある程度寛容になりましょう」的なアドバイスがすぐに見つかります。

もちろん『フィリピンタイム』を許容しているひとが多いのは事実ですが、私は会社の風土作りでなんとでもなる問題だと断言できます。

なぜなら事実、フィリピンのBPO企業や、アメリカ資本のコールセンターなど数社のマネージャーに話を伺ったことがありますが、彼らの会社では遅刻の問題はほとんど起きていませんでした。

コールセンターという設定の中では、カスタマー対応のサービスはオンタイムで開始されるため、規定の就業時間の10分、15分前には職場に来ているというのが常識であり、遅刻者はほぼ皆無であるとのことです。

コールセンターではありませんが、弊社でも同様で、遅刻者はわずかです。つまりは遅刻有無というのは国民の風土というよりも、会社の風土が作り出しているものだと言えます。

遅刻しないチームの作り方のポイント

1. 時間厳守については初めから期待値を設定して説明しておく
弊社では採用面接の段階から、時間厳守の重要性を話しています。遅刻に関しては特に厳しい会社であること、またオリエンテーションでも勤怠に関しての期待値を説明し、ミーティング時、朝礼など、機会があれば頻繁にリマインドします。

2.フィリピン人スタッフから伝える
遅刻が多いスタッフには、フィリピン人で遅刻の少ない人事スタッフなどに時間管理の重要性を話してもらいます。

3. 「遅刻は文化」という認識を変える
フィリピン人ですら、遅刻はフィリピン文化だと諦めてしまっている人が多数います。もちろん悪い文化であるという認識はあるので、経験上、その文化を私達で変えましょう、という文脈で話をすると伝わりやすいということがあります。

4. 紙の力
フィリピンは紙社会です。役所関係でも書類の数が多く非常に時間がかかります。しかしフィリピン人はこれに非常になれています。なぜなら教育機関にも紙風土が浸透しているからです。クラスを休むときも、定期試験を受けるときも、全て文書を提出しなければなりません。契約書や社内規則に何度遅刻したらどういう罰則があるということを明記し、雇用前からきちんと共有しておくことも重要です。ずっと直らなかった問題が警告書1枚で改善されたという実例もあります。

5. 現金以外のインセンティブ
フィリピンでは、遅刻者への罰金(少額)と無遅刻者を表彰して年の終わりに手当を出すというインセンティブを設けている企業が非常に多いのですが、これが遅刻者を減らすのに役に立っているのかといえば非常に疑問です。私がおすすめしたいのが弊社でも行っているランチインセンティブです。前月の無遅刻者に対して翌月にお弁当を提供していますがこれには非常に効果がありました。ただしこれはどちらかと言えば対症療法的なものであり、やはり風土を根付かせるには上記の4点のほうがより重要です。

 

総じてポイントは、スタッフがはじめて仕事をする前から予め説明しておき、当たり前のレベルを変えておくということでしょう。フィリピンの若者には真面目で素直な人が多いため、初めから導入しておけば、そう簡単には崩れません。これから起業されるかたであれば、最初の数人は特に重要です。遅刻が起こらない社風づくりは初めから行いましょう。

まとめ

今回はフィリピンで成功する企業風土として、「スタッフの家族を大切にする」「言語の壁を取り除く」「叱責しない」「遅刻をなくす」の4点について紹介しました。これ以外にも実施していることは多々ありますが、上記に共通するのは、まず現地人を理解しようとする姿勢です。現地スタッフを理解し歩み寄り、信頼関係を築ける土台づくり(社風づくり)が最も重要なのではないでしょうか。

最後に、信頼感の基礎となるオープンさについて、弊社が行っていることを少し紹介します。

オープンさには様々な定義がありますが、重要な定義の一つが、オープンに意見を言い合える関係性でしょう。弊社では朝礼を行っていますが、そこでは全てのスタッフが持ち回りで司会を行い、会社について自分の意見を述べたり、上司が失敗について自ら積極的に共有したりする機会を設けています。

これにより問題を共有しても個人が咎められることはなく、チームに共有して取り組むという意識が生まれています。

オックスフォード大のビジネスマネジメントを専門とするジョナサン・トレバー准教授は次のように述べています。「信頼関係がなければ、そこで働く社員に権限を与え、上司の監督から離れて主体的に働ける組織になることは不可能であり、そうした信頼感はオープンさがあってこそ可能になる。」

 

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