【Business】フィリピン日系企業動向‐ジェトロ解説‐

フィリピンの日系企業は概ね好景気

三宅:今回は昨年2017年のフィリピン日系企業の動向について、日本貿易振興機構(以下ジェトロ)のマニラ事務所所長、石原孝志様にお話を伺います。石原様、本日はお忙しい中、誠にありがとうございます。

石原:こちらこそ、ありがとうございます。ジェトロは毎年10~11 月に、フィリピンも含めたアジア・オセアニア地域の進出日系企業にご協力を賜り、事業動向、経営上の課題、投資環境等に関するアンケート調査を実施させていただいておりまして、今回はフィリピンの進出日系企業の動向をということですので、そちらのデータを元にお話させていただければと思います。

三宅:よろしくお願いいたします。まずはフィリピンの日系企業の昨年2017年の全体的な景気状況を教えていただけますでしょうか。

石原:アンケート調査にて、フィリピンでは73社に回答を頂いたのですが、回答企業の80%が2017年は黒字と見込んでいます。これはASEANでは最多にあたり、ASEAN平均の65%と比較しましても、非常に高水準だと言えると思います。このうち輸出型企業(輸出比率が50%以上)に関しては79%が黒字、内販型企業は80%です。また2018年の営業利益予測も、48%が前年より改善、43%が前年並と回答しています。

三宅:日系企業は全体的に好景気なようですが、この背景にはどんな要因があるのでしょうか。また分野的にはどのあたりが伸びているのでしょうか。

石原:成長の主な理由としては、現地市場や輸出市場での売上増加、生産や販売の効率改善などが上げられています。回答企業の業種内訳は、製造業 が42社で、金属・金属加工、電機・電子、プラスチック・ゴム製品、輸送機器(自動車等)、光学機器、食品加工等となっています。一方、非製造業は 30社で内訳は、建設・プラント、情報通信、商社、製造業の販売会社、不動産、運輸、銀行等です。

三宅:成長要因に生産や販売の効率改善があげられると仰りましたが、効率改善を後押ししている要因はなんでしょうか?

石原:フィリピンの日系企業は、人件費やエネルギーなど、製造・サービスのコスト上昇が事業活動に与える影響について、35%が「大いにある」、48%が「多少ある」と回答されています。こうしたコスト上昇への対策として、フィリピンでは、製品やサービスの値上げ、取扱製品・サービスの見直しはもとより、現地調達率の引き上げ、管理費や間接経費の節減、原材料や調達先見直し、産業用ロボット導入等による自動化が行われました。

他方、他のASEAN諸国に比べると人件費削減を行った企業は少ないようです。最近訪問させていただいた日系部品メーカー工場でも、品質管理や効率性改善のために、機械化、作業工程や動作の単純化、大型組立ラインの小型化など、様々な工夫をされていました。

なお、フィリピンにおける部品・原材料の調達先は、現地フィリピンが42%、日本が31%、ASEANが11%、中国が4%で、このうち現地フィリピンの調達先内訳は地場企業が34%、日系企業が 59%、 日系以外の外資が 7%となっています。

現地調達率は2012 年には、マレーシアが 42%、ベトナムが 28%、フィリピン 26%という結果だったのですが、5 年間で 大きく逆転し、フィリピン43%、マレーシア38%、ベトナム33%となりました。多くの企業が、さらに日本からの調達を減らして、現地フィリピンやASEAN域内に調達先をシフトする意向を示しています。

ちなみに、効率化といえば、ジェトロの調査結果ではありませんが、IT-BPMの業界団体は「自動化や人工知能によりデータ入力など単純な作業が代替されるため、ソフトウェア開発など需要の見込める分野にシフトできるよう高度なスキルをもった人材を育てなければならない」と問題提起されています。

富士通はマニラ・セブに続き、昨年ダバオにも拠点を設けた

フィリピンでの事業拡大や事業の成長性

三宅:BPO業界に関して言えば、フィリピンは欧米企業の単純作業の受託やカスタマーサポートで成長してきた側面もあると思いますので、人材育成のシフトは急務でしょうね。さて、次は今後のフィリピンでの事業拡大や事業成長性についてお聞きしたいのですが、日系企業全体としてはどういう見通しなのでしょうか。

石原:回答企業の 63%が 2018~2019 年にフィリピンでの事業を拡大する予定であると答えています。拡大対象とされているのは汎用品の生産機能、物流機能、販売機能などです。ちなみにASEAN 平均は 56%ですので、こちらも期待できる値です。主な理由は、売り上げの増加、現地市場の成長性、生産・販売ネットワーク見直し、調達や人件費等のコスト低下、労働力確保の容易さなどが上がっています。

また、回答企業の 55%が現地スタッフ数を増加させると答えています。課題としては 人材確保、製品やサービスの多角化や新規投入、価格の見直しが上げられています。

三宅:現地市場の成長性という部分では私の住むミンダナオでも、不動産投資が目立ち、ショッピングモールは人で溢れています。都市部ではまさに目を見張るような成長を目にしますが、他の地域はどうでしょうか。

石原:2016年の実質GDPの地域構成を見ると、首都圏が36.6%、カラバルソンが16.8%、中部ルソンが9.5%と、ルソン島中央部で全国の62.9%を占めています。このほか、中部ビザヤが6.5%、ダバオが4.1%、西部ビザヤが4%、北部ミンダナオが3.8%となっています。

また、2016年の一人当たり(名目)GDPは全国平均が14万ペソで、首都圏(43.2万ペソ)、カラバルソン(14.9万ペソ)以外の地域は全国平均を下回っています。このように地域格差は依然として大きいものの、2015から2016年までの実質GDP成長率と一人当たり名目GDP成長率を見ると、首都圏のみならず、イロコス、中部ルソン、中部ビザヤ、東部ビザヤ、ダバオ、北部ミンダナオでも全国平均より伸びています。

ダバオではコンドミニアムの建設ラッシュが続いている

インフラ整備と人材育成が今後の課題

三宅:全国的に伸びているのですね。GDPが伸びており、日系企業の多くが黒字収支であり、市場の成長性を見ても有望であるならば、逆に投資リスクはどの辺にあるのかが気になります。メリットの方も合わせて、どのような評価になっているのかお聞かせ願えますでしょうか。

石原: 投資のメリットについてですが、2017 年調査でも、フィリピンは、ASEAN 平均に比べて、人材に関する項目で 高い評価を得ています。理由は、英語でコミュニケーションでき、人件費が比較的低く、人材が豊富で、優秀なワ ーカーを比較的容易に確保できるという点が評価されています。ただし、中堅を担う技術者の確保は難しいようです。 また、市場の成長性、税制面でのインセンティブも高く評価されています。

投資のリスクについては、2017 年の調査では ASEAN 全体では人件費の高騰、政策や法制度が不透明、インフラの不備、離職率、各種手続きの煩雑さ等が指摘されています。他方、フィリピンでは、まず インフラの不備、不安定な政治社会やテロ、自然災害、各種手続きの煩雑さ、未成熟な裾野産業が 指摘されており、このうちインフラについては、道路の渋滞、通信速度の遅さ、電力料金の高さ、不十 分な港湾設備が指摘されています。

三宅:2015年にODAからフィリピンに対して2756億円の円借款が行われていますよね。今後、日本の支援による地下鉄や高規格道路、また中国支援ではミンダナオの鉄道敷設などの大規模な交通インフラ改善が計画されていますし、インターネット、電力などのインフラ整備も進んできていますので、中期的にみると大きく改善されていくのではないか、という感覚があります。また人件費や離職率ですが、これは私としては日系企業がもっと現地の優秀な人材を役員に起用するなど現地の方々を中核に据える動きが重要なのではないかと感じています。このあたりはどうでしょうか。

石原:フィリピンでは、経営の現地化に向けて、72%が現地スタッフの育成(※ASEAN 平均は 66%)、40%が中間管理職登用(ASEAN 平均 41%)等に取り組んでいると答えています。特に、フィリピンでは現地スタッフの役員登用比率が 24%と非常に高く、ASEAN 平均 13%の倍近くに達しています。

三宅:弊社でも駐在員を増やすよりも、現地スタッフの雇用に力をいれたり、役員登用したりしているのですが、特にセブの若手IT企業などでは組織の中核にフィリピン人管理者や役員を起用しているのをよく耳にしますし、日系企業のみならず日本という国自体がフィリピンに持つイメージが変化しているのではないかと思うのです。

セブのリゾート、英会話スクールや、最近のフィリピン系ハーフタレントなどの増加が影響しているのだと思いますが、ある日本の大学の教授に伺ったのですが、学生達にフィリピンのイメージの聞き込み調査をしてみたところ、『フィリピンはアジアの中で英語が通じるかっこいい国で、リゾート地が多い』という印象だったそうです。

私が学生だった頃とはまるで印象が違うので非常に面白いのです。こういった印象が根付いてくると、近い将来、フィリピンはさらに市場として価値が高くなるだろうという直感が働くのですが、日系企業でフィリピンをマーケットとして認識して、活動している動きが増えているなどの情報はお持ちでしょうか?

石原: 現地市場開拓、現地企業向け販売について、フィリピンでは 95%が日系企業向け、50%が現地企業向 け、45%が日系以外の外資向けと回答していますが(※複数回答あり)、多くの回答企業が「今後は現地企業向け、日系以外の外資 向けの販売比率を増やしていきたい」としています。

また、回答企業の現地市場開拓における競合先と して、日系企業(58%)、現地企業(42%)、米国企業(23%)が挙がっています。なお、現地市場開拓に向け、 人材の確保・育成、製品・サービスの多角化、新たな製品・サービスの投入、現地パートナーの発掘、 価格の再設定に取り組んでいる回答企業の比率は、他の ASEAN 主要国よりも低い結果となりました。

三宅:『現地市場開拓への様々な施策に取り組んでいる回答企業の比率が、他の ASEAN 主要国よりも低かった。』と仰りましたが、この理由はどのあたりにあるのでしょうか。これはまだマーケットが成長を開始したばかりで競合がさほどいないため、取り組みに力を入れなくても開拓が容易であるというポジティブな見方が可能でしょうか?

石原:フィリピンより早く成長したマレーシアやタイは、フィリピンに比べると競争が激しく、市場開拓に向けた様々な取組が必要になっているようです。一方、フィリピンは規制で外資参入が難しい業種もあり、主要な地元資本が国内市場をカバーしていることから、すでに強力な現地パートナーと組んでおられる場合は安定した環境でビジネスができるということかもしれません。

また、フィリピンの一人当たりGDPは現在3,000米ドル程度ですが、ドゥテルテ政権は2022年には5,000米ドルに引き上げて、フィリピンを中進国入りさせることを目指しています。このままフィリピン経済が安定的に成長し、所得水準が向上し、投資も消費も伸びれば、経済の成熟度に応じて市場のニーズも高度化、多様化し、競合相手もさらに増えていくことになると思います。

ダバオのショッピングモールに進出したユニクロ

良い人材確保が事業成功の鍵となる

三宅:フィリピンの日系企業が課題としている部分はどんなところにあるのでしょうか

石原:比較的大きな課題となっているのは、原材料・部品の調達、税務(法人税、移転価格課税等)の負担、 従業員の質、品質管理などのようです。なお、2016 年調査との比較では、技術者確保に苦慮する企業の比率が 37%から 50%に急増しています。

三宅:特に不足している技術者というのは、どのような分野でしょうか?

石原:設計エンジニア、ソフトウェア開発人材、熟練工、ロボットを操作できる技術者等が考えられます。日本企業は現地人材の育成に力を入れており、フィリピンでは現地人材の登用も比較的進んでいますが、優秀な人材は海外に流出したり、他の外資系企業に転職したりします。

長い間製造業が発展しなかった影響か、もともとフィリピンの大学には理工系の学部が少なく、海外への人材流出も盛んなため、国内で技術者が不足しています。2016年の大学卒業生のうち情報技術専攻と工学専攻はそれぞれ7.7万人でした(2016年に日本の工学部を卒業した大学生は38.4万人)。

経済開発計画庁のペルニア長官は機会あるごとに「外資参入の規制・禁止業種を定めたネガティブリスト(FINL)を改訂し、参入規制を緩和することにより高度な人材育成等への対内投資を促進したい。教育部門の国際化を通じて、インフラ整備やIT-BPM等で高度なスキルを求められる業務に対応できる人材を確保する必要がある」と発言されており、フィリピン政府でも理工系の人材育成は重視されています。

三宅:確かに理工系人材の不足はどの地域の大学を訪れても感じます。技術者の確保の現状については、回答に地方差がありますでしょうか?

石原:回答による地方差は見られません。ただ、フィリピン政府は「包括的な成長」を実現するために、地方への投資誘致を目指しており、地方での発展可能性が高いIT-BPMや農業や農産加工、観光分野を重点的な投資分野に選定しています。ITアウトソーシング拠点都市の2017年ランキングではマニラが第4位、セブが第12位、バコロドが第97位、ラグナ州のサンタローサが第100位にランクインしています。IT-BPM産業がもっと多くの地方都市で発展すれば良いと思います。

三宅:やはりマニラ、セブは強いですね。サンタローサはITシティーを謳って力を入れていますし、今後伸びていくと思います。弊社もIT人材を雇用しているので感じるのですが、IT含め、人材コスト上昇は懸念されていませんか?

石原:今回の調査では33社が賃金上昇を問題点として挙げられています。ASEAN全体で賃金上昇を懸念する回答率は68.5%で、それに比べればフィリピンの45.8%は低いのですが、決して小さい数字ではないと思います。

三宅:ありがとうございます。伺ったお話により、日系企業の多くが黒字成長をしており、国内市場の成長が全国的に有望、かつ多様化する可能性があること、また原材料調達やコスト上昇、従業員の質や品質管理、技術者の確保、インフラ、税務負担など、フィリピンビジネス、日系企業の課題の現状について理解が進みました。本日は誠にありがとうございました。

大学で日本語を勉強する大学生ら

筆者プロフィール
三宅 一道

クリエイティブコネクションズ&コモンズ株式会社  代表取締役CEO/Founder

株式会社ピスタシア Co-Founder

20代半ばまでギタリストとしてバンド活動を続けていたが、バンド解散後、「海外で生きるって何となくイケているよね」という程度の軽い考えで、2001年にフィリピン・ダバオ市に移住。

ダバオでは周囲の素晴らしい人々の親切により、市内の日本語ボランテイアに関わるようになり、そのまま日本語教師としての道を歩み始める。その後は途中調子に乗りすぎて首になったりもしながら、インターナショナルスクールや大学の日本語教育に10年間携わる。後半5年間はミンダナオ国際大学の日本語センター長として、日本語教育システムの改善を行うとともに、教材作成、スピーチ指導(5年連続フィリピン弁論大会優勝)、日本語ラジオ番組の制作、音楽を使った日本語教育など多岐に渡る日本語教育を実践。

教え子である日本語人材に雇用を提供するため、2012年にパートナーの長谷川と共にCreative Connections & Commons Inc. を立ち上げる。