【特集】ダバオで活躍する日本人を特集 – YOUは何しにダバオへ?〜庄子真由美さん編〜

こんにちは!ダバオッチのゆいです。

ダバオで活躍する日本人にスポットを当てる、「YOUは何しにダバオへ?」のコーナー第11弾!

今回お話を伺ったのは、株式会社オリエンタルコンサルタンツグローバル(OCG)の庄子真由美さんです。

今、ダバオの街を歩いていると「これから交通が大きく変わる」という熱気を感じませんか?庄子さんは、ジプニー中心の交通網をより便利で持続可能なバスシステムへと変える、歴史的なプロジェクトの最前線で指揮を執っています。

しかし、インタビューで見えてきたのは、単なる「インフラ整備」の枠に収まらない、泥臭くも温かい「人間ドラマ」でした。

「マニラから自ら希望してダバオへやってきた理由」や「AIには決して代替できないこの仕事の醍醐味」、そして「ダバオ市民の誇りを守るための葛藤」。

スマートなコンサルタントの顔の裏にある、庄子さんの熱い想いに触れると、いつものダバオの景色が少し違って見えるかもしれません。それでは、じっくりとお読みください!

ダバオ市公共交通近代化プロジェクトについて

ダバオバスプロジェクト 庄子さん インタビュー
@Department of Transportation | City Government of Davao

「ダバオ市公共交通近代化プロジェクト(DPTMP)」は、ジプニー中心の交通を、より安全で効率的かつ環境に配慮したバス交通へと再構築する大規模な取り組みです。

このプロジェクトはアジア開発銀行(ADB)や政府の支援のもとで進められ、総事業費は734億ペソにのぼります。完成後は、1日約80万人が快適に移動できることを目指しています。その中心となるのが、総延長673km・29路線のバスネットワークです。

路線は市の中心部から郊外・農村部までをカバーし、役割に応じて4つの階層で構成されます。これにより、市内全域でよりスムーズな移動が可能になる見込みです。

ダバオバスプロジェクト 庄子さん インタビュー
@Department of Transportation | City Government of Davao

さらに、このプロジェクトでは約1,100台の新しい車両が導入される予定で、電気式の連結バスや環境基準を満たすディーゼルバスなどが含まれます。これらは従来のジプニー数台分に相当する輸送力を持ち、より多くの人を効率的に運ぶことができます。

あわせて、最新の交通システムも導入されることで、通勤・通学の時間がより予測しやすく、快適になる見込みです。

  • キャッシュレスで運賃を支払える仕組み
  • バスの位置がリアルタイムで分かる機能
  • バスを優先する信号制御

また、新しいバスは乗り降りがしやすい設計となっており、移動だけでなく荷物の持ち運びもこれまでよりスムーズになります。

ダバオバスプロジェクト 庄子さん インタビュー
@Department of Transportation | City Government of Davao

今回のプロジェクトでは、バスを走らせるだけでなく、安定した運行と維持管理を行うための専用施設も市内の要所に整備されます。

  • 照明付きで安全に利用できるバス停(1,000カ所以上)
  • 乗り換えの拠点となるターミナル(3カ所)
  • 車両の保管や整備を行う車両基地(5カ所)
  • 運転手を育成するためのドライビングスクール(1カ所)

こうした大規模な交通の転換は、長年地域の移動を支えてきたジープニードライバーやオペレーターにも大きな影響を与えるため、約24,000人を対象とした雇用支援や補償などの社会開発プログラムも並行して進められています。

また環境面では、年間約14万トンの二酸化炭素削減が見込まれており、ダバオ市は交通の効率化と環境負荷の軽減を両立する、フィリピンの次世代都市交通のモデルケースを目指しています。

それでは本題の庄子さんへのインタビューに移ります!

Youは何しにダバオへ?

ダバオバスプロジェクト 庄子さん
バス停の完成モデル

ーダバオへ来たきっかけ

仕事の異動がきっかけですが、実は自ら希望して、昨年の5月にダバオへ移住しました。それまではマニラに4年ほど駐在し、刺激的で充実した日々を送っていましたが、仕事と子育てを両立する中で「一度、生活環境を変えてみたい」という思いが膨らんでいったんです。

都会で便利なマニラも魅力的でしたが、一方で治安への緊張感やコミュニティの狭さを感じることもありました。「もっと広々とした場所で、心にゆとりを持って暮らしたい」ーそう願っていた矢先にダバオでのプロジェクトが立ち上がり、「これだ!」と迷わず手を挙げました。もともと知人から街の良さを聞いていたので、期待に胸を膨らませてのスタートでした。

ーダバオの好きなところ

治安の良さはもちろんですが、一番の魅力は素晴らしい気候ですね。環境が良いと不思議と心に余裕が生まれ、街の人も優しく感じられます。

特に、台風の直撃が少なく洪水のリスクが低いことは、精神的にとても大きな安心感に繋がっています。雨の多くが夜の間に降り終えてくれるので、朝はいつもカラッと晴れわたっているんです。晴れやかな気持ちで一日を始められる、その心地よさがダバオの好きなところです。

プロジェクトについて深掘り

ダバオバスプロジェクト 庄子さん インタビュー
ダバオ市内を走る試験運用バス

ープロジェクトはなぜ始まった?

このプロジェクトが始まった大きな要因は、「渋滞対策」と「気候変動への対応」です。世界的な排ガス削減の動きを受け、ダバオの交通を根本から変えようという議論がスタートしました。

ージプニードライバーの生活をどう守るのか

このプロジェクトで特に重視されているのが、ジプニードライバーへの配慮です。交通を近代化するには古いジプニーの置き換えが必要ですが、多くのドライバーにとってそれは生活そのものでもあります。

そのため、単に車両を入れ替えるのではなく、再教育や新たな雇用機会の提供を通じて、ドライバーの生活を支える仕組みも同時に進められています。こうした支援はフィリピン運輸省(DOTr)が主導し、TESDA(フィリピン労働雇用技術教育庁)などが再教育を担っています。

また、この問題をより難しく、そして奥深くさせているのは、現場の「重層的な構造」です。 現場には、実際にハンドルを握る「ドライバー」だけでなく、車両を所有する「オーナー」、さらにそのオーナーたちを束ねる存在など、多くのステークホルダーが関わっています。

こうした非常に複雑でデリケートな人間関係や利害の調整については、私たち外国人が強引に介入するのではなく、「フィリピン人同士の間で、対話を重ねながら解決していく」という形で進められています。現地の文化や背景を理解している彼らだからこそできる調整を、見守りながらサポートしている状況です。

ーカリナンドライビングスクールについて

ドライビングスクールは現在まさに建設が進んでいるところで、正確な受講者数はこれから徐々に決定される段階です。

最終的には約1,100台のバスを走らせる計画のため、同程度のドライバーが必要になると見込んでいますが、育成は段階的に進めていきます。フィリピン運輸大臣の宣言では、2027年第3四半期の「部分開業」を目指しており、まずはダバオからカリナン方面へ向かう主要な幹線道路からスタートする予定です。

一度に街全体の交通を入れ替えるのではなく、「この路線からジプニーを廃止し、バスの運行を始める」という形で、ルートごとに一歩ずつ、着実に移行を進めていくのがこのプロジェクトの流れです。

OCG・庄子さんの役割とは?

Youは何しにダバオへ?庄司真由美さん
OCGのダバオオフィスにて(OCG-HSSI JV: OCGが代表企業で、マレーシア籍HSSIとの共同企業体として構成する)

ーOCGの役割:プロジェクトを完遂させる「番人」

OCGは、フィリピン運輸省から依頼を受けてプロジェクト全体を支える総合コンサルタントとして、現場を円滑に進める役割を担っています。クライアントに代わる「番人」として、施工業者が契約や仕様通りに正しく業務を行っているかを厳密に監督するのが主な任務です。

現在は主に土木・建築分野の管理を行っていますが、今後はバスの調達検査や交通システムの導入など、より高度で幅広い領域へと業務が拡大していきます。こうした異なる契約や業務を「インターフェース・コーディネーター」としてつなぎ合わせ、全体がずれなく進むよう調整する役割も担っています。

ー庄子さんの役割:200名を束ねる「司令塔」

主に2つの責任者を兼務しています。

一つは管理部門のトップとしての役割です。約35億円規模の契約における予算管理、クライアントへの請求をはじめ、外国人約30名、フィリピン人約170名の最大約200名のスタッフの人材管理や事務所運営全般を統括しています。人員の採用や退職に関する対応、コンプライアンス管理、クライアントからのリクエスト対応など、現場で発生するあらゆる課題に対処する立場です。

もう一つはプログラムマネージャーとしての役割で、プロジェクト全体の進行を統括するポジションです。どの工程が1日遅れると全体に影響するのかを細かく把握し、リスクを事前に分析・最小限にしながら、全体のスケジュールと進捗を管理する「司令塔」としての立場を担っています。

正解のない現場で導き出す最適解

ダバオバスプロジェクト 庄子さん インタビュー
カリナンドライビングスクール建設現場にて

ー「ジプニーという文化」や「生活者の足」を奪うことへのジレンマ

このジレンマは、マニラでの鉄道プロジェクトに携わっていた頃から常に私の心にあります。新しいものを導入するために古いものをなくす際、完成までの数年間に人々に強いてしまう負担や、近代化への賛否両論にどう向き合うか。それは常に大きな葛藤です。

このプロジェクトにおいて、最も大切にされているのは「ダバオ市民の声」です。完成後バス運営を担うダバオ市は、徹底して住民に寄り添う姿勢を貫いています。

実際、バスのデザインやターミナルなど建物の設計に至るまで、ダバオ市の細かな意向が反映されています。

政府とコンサルタントだけで決めるのではなく、地域住民の声を丁寧に集約し、議論を尽くした上で進めていく。そんな「地域の声に基づいた近代化」のプロセスこそが、このプロジェクトの心臓部だと感じています。

ー200名の個性を活かす適材適所の極意

私が常に心がけているのは「その人の強みを決して否定しない」ことです。

誰しもこれまでの経験に基づいた自負を持っています。どうすればその強みをプロジェクトで活かせるか、「適材適所」を見極めるようにしています。

また、どうしても意見を通せなかったり改善をお願いしたりする場合は、できるだけ人前では言わず、相手のプライドや立場を尊重しながら丁寧に理由を説明します。信頼関係を築く上で、相手を尊重する姿勢は欠かせません。

そして何より大切なのは、相手の性格や大切にしているものを察する「空気を読む」力です。

例えば会議で感情が昂ってしまう方がいれば、その場では深追いせず「後でゆっくり伺います」と引き取ります。「ただ話を聞いてほしい」という想いに耳を傾ける一方で、全体の議論を止めないよう別の話題へ促す。一人ひとりのモチベーションを汲み取りながら、その場の状況に応じて場を収めるバランス感覚を大切にしています。

ー日本人一人、多国籍チームで挑む「日本クオリティ」

最大200名近い多国籍チームで常駐の日本人は私一人です。また、本プロジェクトは日本の政府開発援助(ODA)案件ではありませんが、日本企業が総合コンサルタントとして参画することは、日本で培われてきた知見や経験、いわゆる「日本クオリティ」を発信できる貴重な機会だと感じています。

多国籍な現場では「言語」以上に「文化」の壁に直面しますが、それは語学力だけでは超えられません。大切なのは相手をリスペクトし、決して否定せず理解しようと努めること。そんな心の通ったコミュニケーションこそが、国籍や言葉を超えてプロジェクトを前進させる鍵だと実感しています。

ー仕事の中で一番大変なこと

仕事をしている中で一番辛いと感じるのは、立場の「板挟み」になった時ですね。

「会社としての責任や利益」を果たさなければならない立場と、純粋に「プロジェクトの成功」を願う自分。その二つの思いの狭間に立たされる瞬間が、精神的に最も辛いです。コンサルタントとして双方の言い分が理解できてしまうからこそ、要望に応えることとビジネスを成立させることの「せめぎ合い」は、まるで正解のない問いに向き合っているような感覚です。

ただ、この調整こそが大変なところでもあり、一番の醍醐味でもあると感じています。私は、こうした局面を乗り越えるには一人で抱え込まず「誰かに相談すること」、そして「時間をかけた対話」が不可欠だと信じています。

状況は毎回異なり、過去の成功例が通用するとは限りません。その場の空気を読み、理屈では割り切れない人間同士の間に立って、泥臭く最適解を導き出す。これこそがAIには代替できない、この仕事の面白さなのだと自負しています。

ー仕事のやりがい、鳥肌が立つ瞬間

このプロジェクトはまだ進行中ですが、これまでの経験を振り返っても、やはり一番鳥肌が立つのは物事が「形」になった瞬間です。

インフラの仕事は形になるまでが非常に長く、一度決まったことが白紙に戻ることも珍しくありません。そんな紆余曲折の中で、必死に調整を重ねてきたことがようやく「マイルストーン」として結実した時、これまでの苦労がすべて報われたと感じます。

現在進めているドライビングスクールの建設も、一つの大きな目標です。しかし実際は建物を作ること自体よりも、土地の収用やバランガイの許可、予想外の水路への対応といった、細かく泥臭い「人間」の部分での議論を一つずつ積み上げていくことの方が、はるかに大変なんです。

中に入っている私たちにしか分からない、利害関係者との壮絶なやり取りがあります。物理的な完成だけではなく、「どれだけ多くの人と、同じ方向を向いて進んでこられたか」。そのプロセスにこそ、この仕事の真の価値があると思っています。

難しい協議を乗り越えて目標を達成した時、共に苦労した仲間と固く握手を交わし、思わず泣きそうになる……。そんな、関係者にしか分からない熱い達成感こそが、この仕事で味わえる最高の瞬間ですね。

プロジェクト成功の先にあるダバオの未来

ダバオバスプロジェクト 庄子さん インタビュー
試験運転バスに期待を寄せるダバオ市民

ープロジェクト成功の先に見える景色

プロジェクトが成功した先には、「ダバオの人々が、自分の街により一層の誇りを持てる未来」が待っていると確信しています。

見た目の変化はもちろんですが、何より生活の質が劇的に向上します。通勤・通学のストレスが減り、移動中の不安もなくなる。誰もが当たり前のようにキャッシュレス決済を使いこなす。そんな日常を一人ひとりが体現することで、「ダバオってすごいんだ!」というプライドがより強まっていくはずです。

ダバオの方々は、自分たちの手で独自の発展を遂げたいという強い意志を持っています。その象徴の一つが「完全キャッシュレス化」へのこだわりです。たとえ「無理だ」という声があっても、日本ですら達成できていない仕組みを世界に先駆けて成し遂げようと、ダバオ市は決して揺らぎません。

ダバオの特性を活かして市民の生活を豊かにし、世界に誇れる仕組みを自分たちの手で作り上げること。その大きな挑戦が実を結んだとき、ダバオは世界が注目するモデルケースになります。その時、ダバオ市民の誇りはさらに大きなものになるはずです。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

庄子さんのお話を通じて、現在進められているバスプロジェクトが、単に車両を新しくするだけのものではないことが伝わってきました。それは、長年街を支えてきたジプニー運転手さんの人生を守り、バランガイの小さな声を取り入れ、「ダバオに生きる人々の誇り」を形にするための壮大な挑戦でした。

「どんなに技術が進んでも、最後は人と人の対話。そして空気を読むこと」

そう語る庄子さんの言葉からは、国籍や立場を超えて信頼を築くための、人としての強さと優しさが溢れていました。様々な機関の板挟み、多国籍チームの苦悩などを乗り越え、マイルストーンを達成した時に仲間と流す涙……。そんな「形のない宝物」が、ダバオの新しい道路や建物の土台になっているのですね。

数年後、ダバオの街を颯爽と走る近代的なバス。その姿を見たとき、私たちはきっと、その影で奔走した庄子さんたちチームの熱い握手を思い出すはずです。

庄子さん、貴重なお話を本当にありがとうございました!

《この記事を書いた人》

プロフィール写真

ダバオッチのゆい(21歳)

東京の大学3年生で現在は休学中📚

趣味は小学校から続けているサッカー⚽️
登山・素潜りなどの自然アクティビティ🌿

フィリピンの文化・人々に興味を持ち、タガログ語・ビサヤ語を学習中

自分の体験を通じて、ダバオを訪れる人、ダバオに暮らす人に向けて有益な情報を発信していきます!

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