フィリピンは、2012年以来継続的にASEAN諸国でトップクラスの経済成長率を維持している。フィリピン国家経済開発庁のリポートによると、2016年第1四半期のGDP成長率は6.9%となり、サービス業と製造業が景気上昇を牽引している。景気を根本的に支える要因として、GDPの7割を占める個人消費の強さが挙げられ、小売業は今後も継続的に好調である。
また国家統計局によると、小売の中では特に外食産業の伸びが指摘されている。個人消費は、フィリピン人海外労働者(OFW)からの送金をバックボーンとした、「人材輸出サービス」業の成長に支えられている。その中で、外務省「海外在留邦人数調査統計(平成28年要約版)」によれば、2015年10月1日付で、フィリピンに進出している日系企業(拠点)は1448社となっており、国別では8位、ASEAN諸国内に限って言えば、タイ、インドネシア、ベトナムに次いで4位となっている。
人口においても2014年7月に公式に1億人を突破し、労働人口がの増加、経済成長が期待できるフィリピン進出のメリット・デメリットを考えてみたい。
目次
フィリピン進出、11つのメリットとは?
フィリピン進出、3つのデメリットとは?
フィリピン進出、11つのメリットとは?
メリット① 犯罪・汚職の激減による治安の回復
フィリピン進出にあたり、「治安」を懸案事項に上げる人も多い。しかし新大統領は犯罪と汚職の撲滅を政策の柱に掲げており、既に取り締まりを強化、今後急速に治安が回復することが予想され、安全な企業進出が期待できる。
メリット② 役所の許可手続きの簡易化、効率化
現状では、営業許可証の発行には6つのステップが存在し、手続き終了に8日間を要する。これを、全ての役所に関して、許可書・証明書の発行が72時間以内に行える仕組みに改変される。そのことで企業進出の煩雑なペーパータスクの簡素化が図られる。
メリット③ 情報通信技術省の設置によるインフラ整備の加速化
情報通信技術省が新規で設置されたことにより、ASEAN諸外国に比べ脆弱であった情報周りのインフラ整備が急激に進むことが予想される。そのことにより、IT、BPO等の企業にとっては安価で安定したネット環境の構築が可能となる。
メリット④ 外資直接投資拡大、外資規制を規定する改憲及び法令の緩和
外国資本の出資比率制限が緩和される見込みである。例えば、現状払込資本金額20万米ドル未満のフィリピン国内市場向けの企業は外国投資が40%以下に制限されていたが、これが撤廃、緩和されることは成長著しいフィリピン国内のマーケット向けに売上を見込んで展開することが可能である、また、払込資本金額250万米ドル未満の小売業は外国資本の参入や外国人の就業が認められない分野であるが、これが撤廃、緩和されることは企業にとってメリットとなる。
メリット⑤ 土地登記機関の管理体制の改善、土地保有の安全性・確実性・担保性の向上
生産拠点、特に工場等を展開する場合、その土地確保が必要になるが、新大統領の政策では、このあたりの改革を実施するとしてあり、安全性・確実性・担保性が確保されることは、中長期的な視点で運用を行うことができるメリットがあるため、設備投資を行いやすく、また投資回収のリスクも軽減できるメリットがある。
メリット⑥ 所得変動制税率、物価連動型税制導入などによる税制改革
現在、国内法人(フィリピンの法律で設立された会社)は、課税所得に対して最高30%の法人税率が掛けられているが新大統領の政策により、税率の引き下げが期待できる。その場合、課税所得に対して最高30%の法人税率が掛けられているがこの引き下げも期待できる)、PEZA(経済特区庁)、BOI(投資委員会)等の税制優遇措置以外にも外資企業が税制改革の恩恵を受ける等のメリットとなる。
メリット⑦ 豊富な外資優遇措置
フィリピン政府は外貨獲得のため、外国資本企業に対し様々な税制を含む優遇措置をとっている。代表的なのがPEZA(フィリピン経済特区庁)とBOI(投資委員会)である。PEZAがフィリピン各地域に位置する公営、および民営の輸出加工区(ECOZONE)に投資する企業向けに各種優遇措置を設けているのに対し、BOIは、毎年発表される投資優先計画(IPP:Investments Priorities Plan)で指定された業種や事業に投資する企業に、各種優遇措置を付与している。優遇措置には税周りの優遇制度みならず、就労ビザ等の取得優遇も含まれる。
メリット⑧ 理想的な人口構成
フィリピンはASEANで2番目に人口が多く、2014年7月に公式1億人を突破した。また、フィリピンの人口ボーナス*1 のピークは2045年頃になると予想されている。現状、国民の1割が海外で働くフィリピン人海外労働者(OFW)であり、これらの送金が個人消費を支えており、これが景気の拡大に繋がっている。この流れは、当分の間は変わらないとみられており、フィリピン経済は中期的には送金による内需を牽引役として、底堅い動きが続くと見られている。2012 年以降、フィリピンの経済成長率は ASEAN 主要国のなかでもトップクラスである。
*1.総人口に占める生 産年齢(15 歳以上 65 歳未満)人口比率の上昇が続く、 もしくは絶対的に多い時期、若年人口(15 歳未満) と老齢人口(65 歳以上)の総数いわゆる従属人口比 率の低下が続く、もしくは絶対的に少ない時期を指 す。
メリット⑨ 未開拓エリアの開拓でマーケットシェアNo.1になる可能性も
ミンダナオ島エリアは長年紛争に悩まされてきた地域であるが、新大統領就任後、抗争を続けてきたグループが新大統領を支持したことにより、紛争が収束しそうな雰囲気がある。その場合、未開拓なミンダナオ島、特に農業関係は巨大なビジネスチャンスが誕生するであろう。
メリット⑩ 豊富な人材と人件費の安さ
フィリピンは英語が公用語であるので、一般的に英語が広く浸透している。オンライン英会話でフィリピン人講師が広く利用されているのは有名であるが、最近はアウトバウンド、越境ECビジネスの成長が見られるため、欧米向けのマーケティングなどに低価格の英語人材が活用できることが魅力である。また、人件費も業種によるが、日本の4分の1から2分の1であることもメリットである。
メリット⑪ 地理的なメリット
フィリピンは日本から飛行機でおよそ4時間、時差も1時間程度と日本と近く、支社やサテライトオフィスなどを設置する場合、オペレーションにおいても非常に利便性が高い。
フィリピン進出、3つのデメリットとは?
デメリット① フィリピン出稼ぎ文化
現状、国民の1割が海外で働くフィリピン人海外労働者(OFW)であり、これらの送金が個人消費を支えており、これが景気の拡大に繋がっている。と前項で述べたが、フィリピン人海外労働者(OFW)が増加することはデメリットでもある。というのは、優秀な人材ほど、海外に高収入を求めて出稼ぎに出る機会があるため、例えば国内の医師などは収入の低いフィリピン国内よりも、わざわざ看護師資格を取得し、収入の高い諸外国に出稼ぎに出る傾向が強い。そのため、労働人口は多くいてもその質について問われれば、優秀な人材が海外に流れてしまう傾向がある。
デメリット② フィリピン人的キャリア形成(人材管理)
フィリピンでは日本よりも転職が盛んである。ゆえに一社に長く勤めてキャリアを形成するという考え方はなく、数年務めて、さらに待遇の良い企業に転職をするという考え方が一般的である。種にもよるが、0~3年程度で次の転職を考える人が多い。そのため、人材への投資が短期間にならざるを得ない。また良い人材を社内に長く留めておきたい企業としては、給与のみならず、福利厚生や企業文化、オフィス内の環境、従業員同士の関係等細部にまで気をきかせておく必要がある。さらに優秀な人材への引き抜きなども頻繁に行われるため、雇用契約等は最新の注意が必要である。
デメリット③ 行政手続き
2016年6月に新大領領が就任し、様々な改革の中、役所の許可手続きの簡易化、効率化も進められているが、起業・企業進出の手続き、あるいは法律や税制関係等は非常に複雑で煩雑であることは間違いない。特に起業・企業進出時には新規の登録やそれに伴う許認可等が大変労力を伴う。ただしこの辺りは弁護士や公認会計士、コンサルタント等、現地の専門家の知恵借りることで対応は可能であるので、しっかりと対策を講じてもらいたい。