【コラム】妖怪たちも国際化の時代?フィリピンの妖怪図鑑<第四弾>

©Shinya Sawamura

澤村信哉(さわむら しんや)
1976年生まれ、孤児院HOJ副院長。横浜国立大学卒業。
1999-2006年はフィリピン、ミンダナオ島にて、2006-2008年はブルガリア共和国ルセ市にて日本語教師として働き、教科書作成や教員育成にも注力。2008年からフィリピンに戻り、児童養護施設ハウスオブジョイの運営に携わる。現在は約20人のこどもたちと一緒に暮しながら、こどもの自立支援や就学支援のためのプロジェクトを手掛けている。
特技は20種類以上の楽器演奏と、主たる収入源でもある似顔絵描き。ダバオッチ創設者ハセガワが初めてダバオを訪問した2005年に面倒をみたのは実は私である。


さあ、今回まず紹介するのは「ドゥウェンディ」。大地の精霊とも言われる小人です。見た目は白雪姫に出てくる7人の小人の影響が色濃く、そのイメージが定着する以前にどういう感じだったのかは今では伺い知れません。大昔は「こどもの腸を食べて殺す」なんていうふうに恐れられていた時期もあったようですが、今ではすっかり「善良だけど怒らせると怖い妖精さん」に落ち着いています。

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「小人の妖精」というモチーフも世界中で見られます。ヨーロッパにはノーム、ドワーフ、ゴブリンといったファンタジー作品にはおなじみの小柄な人間型の妖精がいますし、日本だとアイヌのコロポックルがまさに「小人の妖精」ですね。

中国には2000年前の文献にも小人が住む国の記述があるそうで、世界中で存在が信じられていたのが分かります。小人症と呼ばれる先天性の病気は一定の割合でどの民族にも存在するので、それも世界中で信じられている理由のひとつと言えるでしょう。

その立ち位置も基本的には世界中で似通っていて「基本的には善良だけれど、怒らせると大変なことを起こす」という感じです。だいたい怒らせる原因はその土地の自然を大事にしない行動を取った場合です。木を切ったり、大地を荒したり、動物を乱獲したりすると、自然災害を起こしたりして人間を罰すると信じられているのです。

フィリピンのドゥウェンディもご多分にもれず、「怒らせると怖い」そうで、こどもが病気になったり、こどもが生まれなくなったり、「息子」が言うことを聞かなくなったりするそうです。なるほど、フィリピンの人が何を恐れているのかがとてもよく分かりますね。(笑)

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ちなみにドゥウェンディを怒らせてしまいそうな日常的にやってしまいそうな行動は「立小便」です。なので私の住む地域の男たちは茂みなどで立小便をするときには必ず魔除けの言葉「タビ・タビ」を唱えます。みなさんもやむを得ずに茂みなどで用を足すときにはお気をつけて!

さあ、いよいよ最後です。最後に紹介するのは「ホワイトレディ」。英語で呼ばれているだけあって、どうやら比較的新しく恐れられるようになったお化けです。その見た目は読んで字のごとく「白っぽい女性」で、西洋の「ゴースト」のフィリピン版、ということだと思いますが、最近では同名の映画がフィリピンで作られてそこそこヒットしたこともあり、「白い服、黒髪長髪、顔面蒼白の女性」というデザインに落ち着いています。日本映画「リング」に出てくる「貞子」の影響が色濃い気がします。

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こういうふうに、妖怪の話にも「外来種」とでも呼ぶべきような存在は結構います。例えば今や世界中で信じられている「サンタクロース」は、ブルガリアの「トルバラン」という袋を持って家々を渡り歩き、いい子には木の実などのお菓子をくれるけれど、悪い子はその袋に入れて連れ去ってしまう、という妖怪が元だと言われています。

「フェニックスと朱雀」や「ドラゴンと龍」のように相互に影響を与え合って想像が膨らんでいる例もありますし、「麒麟」のように、遠い異国の動物が、話に尾ひれがついて伝説の存在になる場合もあります。妖怪というとローカルなもののような気がしますが、文化というものは太古の昔から、異文化と混ざり合って現在に至っているのです。

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フィリピンではホワイトレディは「守護霊的なもので無害、むしろ友好的」という人もいれば、「人を怖がらせて事故を起こさせる恐ろしい存在」という人もいます。特にホワイトレディを恐れているのはタクシーやバス、トラックなどの運転手たちで、交通事故死した女性がホワイトレディになって復讐に来る、と信じています。

ですから運転手たちは「そんなにお守りつけたら視界がせまくなって余計危ないんじゃないの?」というくらいに、十字架などの魔除けグッズをフロントミラーに吊り下げ、教会の前を通り過ぎる時には「ハンドルから手を離すほうが危ないんじゃないの?」というくらいに熱心に十字を切ります。

タクシー運転手さんに「ホワイトレディ見たことある?」と聞くと、かなりの高確率でおもしろい体験談を聞かせてもらえるので、言葉が堪能な人は試してみると、渋滞につかまっている時間がとても有意義なものになりますよ。というわけで、これまでの4回の連載でショコイ、ティグバラン、カプレ、マナナンガル、スィグビン、チャナック、ドゥウェンディ、ホワイトレディを紹介しました。

皆さんはどのお化けが一番恐ろしく感じられましたか?もし特に恐怖を感じたお化けがいたのなら、それがあなたの罪悪感や価値観と大きくかかわっているということです。そして、それこそが、あなたがフィリピンの人たちと共有できる価値観であり、理解し合い、仲良くなれる部分なのかもしれません。お化けのことを考えることで、あなたのフィリピン生活が豊かなものになれば幸いです。