こんにちは!ダバオッチのゆいです。
今回は、いつものレストランやスポット紹介とは一味違う、ダバオの「ディープな一面」に迫ります。
なんと今回、フィリピン科学技術省ダバオ地方事務所(DOST-Davao)が進めるGRINDプログラムの現場に密着することができました。これはダバオ地方の山間部や農村に眠る「生活の知恵」を、科学の力で未来へ輝かせる画期的なプロジェクトです。
『科学』と聞くと少し難しそうに聞こえるかもしれませんが、現場で出会ったのは、地域の暮らしを良くしようと奮闘する人々の温かい物語でした。フィリピンの知られざる日常と、そこから生まれる希望の光。現場取材で感じたリアルな熱量をお届けします!
目次
ダバオ郊外に革命を起こす「GRINDプログラム」とは?

GRINDプログラムは、科学技術省ダバオ地方事務所(DOST-Davao)が推進する「地域密着型のイノベーション支援プロジェクト」です。
このプログラムの大きな特徴は、DOSTが持つ最新技術を一方的に導入するのではなく、地域に昔から受け継がれてきた「その土地ならではの知恵や資源」に、科学技術の力を組み合わせる点にあります。そうして、地域の魅力を活かした商品へと磨き上げ、市場での価値を生み出し向上させることを目的としています。
単なる技術支援にとどまらず、地域が大切にしてきた伝統や文化、暮らしを尊重しながら、現代のニーズに合わせた新しい形へと発展させていく。そんな“地域らしさ”を守りながら成長を後押しする、文化や伝統にも配慮したプログラムです。
これまでに何がGRINDプログラムの対象に?

では、これまでこのプログラムの対象として、どんなものが扱われたのでしょうか?
対象はモノだけにとどまらず、伝統料理の保存技術、地域独自の薬草活用、伝統工芸の新しい加工法などの技術にまで及びます。その地域で人々が無意識に行っている作業や習慣が実は、市場で価値のある製品や技術として生まれ変わる可能性を秘めているのです。
ダバオ地域の奥深くへ宝探しの旅「Saliklakbay」

GRINDプログラムは、Saliklakbay(サリクラクバイ)と呼ばれる工程から始まります。これは、フィリピンの言葉で「研究(Saliksik)」と「旅(Lakbay)」を組み合わせた造語です。
机上の空論ではなく、「現場にこそ答えがある」という、このプログラムを象徴する言葉です。
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DOSTのスタッフが、実際に地域へ出向く
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現地の人々と対話し、彼らのイノベーション・地域問題を発見する
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彼らのイノベーションを発展させる方法・地域問題を解決する方法を共に探る
DOSTにとってサリクラクバイは単なる出張ではなく、地域の課題を共に掘り起こし、未来の可能性を探る「冒険」です。今回、Davawatchはその貴重な1日に潜入しました。
科学の眼で「宝」を探しに—タワンタワンでのある1日

ダバオの早朝、カリナン地区周辺にあるバランガイ・タワンタワンへ向かいます。このバランガイはドリアン、カカオ、バナナをはじめとする農作物が豊かな地域で、道中にも四方を囲む農地が広がっていました。
バランガイホールに到着すると、そこには地域を支えるバランガイ・キャプテンやコミュニティのリーダーたちが待っていました。
DOSTの職員が、GRINDプログラムに関するプレゼンテーションを行なった後に、バランガイキャプテンをはじめとする地域の人々と意見交換を交わし、バランガイを取りまとめるマクロな視点からの問題提起にも耳を傾けます。

このバランガイでは近年、市場の基準を満たせず廃棄されてしまう果物が増えているという相談が寄せられました。そこで、DOSTは「廃棄果物をどのように再利用できるか」や、「市場基準を満たせる品質に近づけるための栽培方法」などについて、具体的なアドバイスを行いました。
また、この場では「科学技術を通じた地域活性化プログラム(CEST)」についても説明が行われました。DOST側は、廃棄される果物をバナナチップスやバナナ粉といった付加価値の高い製品へ加工するための研修や、必要な設備支援を提供できることを伝えています。
ただし、この日の話し合いだけで全てが決まるわけではありません。今回の訪問は、まず地域が抱える課題を把握し、今後どのような支援が必要なのかを確認するための第一歩となるものです。

まるで森のような農場を歩いて回ります
続いて、今回の依頼主である農家さんの元へ。まるで森のような広大な農場を歩きながら、農家さんから直接、日々の苦労や収穫に対する熱い誇りを聞かせてもらいます。
DOSTの専門家たちが着目するのは、作物の品質や加工プロセスに隠れた課題です。「ここを少し調整すれば品質が安定するのでは?」「この技術なら賞味期限を伸ばせるかもしれない」。そんな具体的なアイデアが次々と飛び交います。
単なる支援の提案ではなく、農家さんと一緒に未来の選択肢を並べていく。専門家と生産者が膝を突き合わせて、「私たちの作物をどうすればもっと多くの人の手に届けられるか」を真剣に語り合う姿に、DOSTのプログラムが持つ温かさを強く感じます。
ワークショップと「未来の味」
次に、農場でのワークショップです。机の上には、農場で採れた色とりどりの花を使ったサラダやハイビスカスを干して作ったお茶など、これまで見たこともない独創的な未来の味が並びます。
実際にその製品を手に取り、参加者全員で試食をしました。この農家さんは食の常識にとらわれずに、次々と新たな食を追求しており、このほかにも様々な未知の食べ物がありました。
この未知の食に対して、DOSTの職員はその調理方法から保存方法までのプロセスについて、科学技術の入る隙間を探します。
ワークショップ後も、何度も議論を重ね新たな可能性を模索し、日が暮れた後にダバオへの帰路につきました。
農家さんにインタビュー!

―この農園はいつから始まった?
この農園は35年以上前、山の自然や水源を守りたいという思いから、私の両親が始めました。当時植えられた木々は今では大きく育ち、農園全体を包み込むような心地よい木陰を作ってくれています。
5ヘクタールの広大な農園には、ココナッツ、マンゴスチン、ランソネス、バナナ、ドリアン、アボカド、グアバ、カカオ、ドリアンカカオなど、多種多様な作物が植えられています。
―農園の栽培スタイルのこだわり
この農園の特徴は、「まるで森のような多様性」にあります。
一般的な効率重視の農業では、同じ作物を一直線に並べて大量栽培することが多く、害虫が発生しやすいため農薬が必要になります。
しかし、私たちはその逆の考え方です。自然界の「共生」の仕組みを大切にし、異なる植物を混ぜて育てたり、あえて曲線的に植えたりすることで、できる限り自然に近い環境を作っています。
―作物の味について
農薬や殺虫剤を一切使わず、自然に近い環境で育てているため、作物本来の甘みや香りがとても強いのが特徴です。
ただ美味しいだけではなく、体にもやさしい作物として、こうした自然栽培の農産物は今、世界的にも注目を集めています。
―今後の展開
現在は栽培だけでなく、加工品作りにも挑戦しています。22種類のフルーツを使った石鹸やキャンドル、オイルなどを個人的に販売しており、今後はDOSTの皆さんの協力を得ながら、科学の力を借りてさらに活動を広げていきたいと考えています。
最終的には、この活動を通じてバランガイの人々の雇用を生み出し、地域社会に貢献できる存在になれればと思っています。
DOSTの職員にインタビュー!

ーGRINDプログラムの誕生
一般的にイノベーションとは、研究者や学者など、特別な教育を受けた人だけが生み出すものだと思われがちです。しかし、現実は必ずしもそうではありません。アニール・グプタ博士はこう言いました。
「周縁に生きる人々の心は、決して周縁的ではない。“Minds at the margins are not marginal minds.”」
フィリピンでは、こうした地域発のアイデアを「草の根イノベーション」と呼んでいます。これらは、日々の困難や制約の中で、人々が生き抜くために生み出した、実用的でクリエイティブな解決策です。
この価値にいち早く気づいたのがDOSTダバオ地方事務所でした。2019年に一つのプロジェクトとしてスタートし、その後、国連開発計画(UNDP)や国家経済開発庁(NEDA)からの支援を受け、現在はDOST本部によって全国へと広がっています。草の根の知恵こそが、地域の経済発展を支える鍵だと認められたのです。
ー 今回の「サリクラクバイ」の手応えと今後の展望
私にとって初めての「サリクラクバイ」への参加でしたが、コミュニティのリアルな現状をより深く理解することができました。
特に感動したのは、地域のイノベーションが彼らの「生活」や「身近な資源」と密接に結びついていることです。例えば、豊かな森や植物に囲まれているからこそ、そこから得られる食材や製品を活かした独自の工夫が生まれていました。
これらの素晴らしい知恵がもっと広く知られ、さらに発展していくことを願っています。それが結果として、地域の人々にとってより多くの仕事や、豊かな暮らしのチャンスにつながると信じています。
まとめ
DOSTの「サリクラクバイ」に同行して感じたのは、科学技術とは決して冷たくて難解なものではないということでした。
今回訪れたタワンタワンの農場のように、現場の人々が長年悩み、工夫してきたことに対して、科学の専門家が寄り添う。その対話から、廃棄されていた果物が輝きを放つ「価値あるプロダクト」へと生まれ変わるヒントが生まれていました。
今回、私たちが目にした農家さんの工夫や挑戦が、近い将来、素敵な製品となって皆さんの手元に届く日が来るかもしれません。その時はぜひ、「これは地域の知恵と科学の結晶なんだ」と思い出しながら、手に取ってみてください!
《この記事を書いた人》
ダバオッチのゆい(21歳)
東京の大学3年生で現在は休学中📚
趣味は小学校から続けているサッカー⚽️
登山・素潜りなどの自然アクティビティ🌿フィリピンの文化・人々に興味を持ち、タガログ語・ビサヤ語を学習中
自分の体験を通じて、ダバオを訪れる人、ダバオに暮らす人に向けて有益な情報を発信していきます!






