Paradise reefの保護運動を行う天然資源管理コンサルタントのジョイ・ガータス氏は、ダバオ市-サマル島間の橋が建設されることに伴い、海中の珊瑚礁に甚大な被害が及ぶと危惧している。サマル島側の橋設置ポイント付近となる「Paradise Island Park and Beach Resort」の珊瑚礁は非常に豊かなものであるが、この工事の影響をかなり受けると予想される。
ガータス氏によると、サマル島にあるParadise Island Park and Beach Resortの珊瑚礁は、生物の宝庫であり、リゾート付近の海域の約36%が珊瑚礁で覆われ、その種類は54種類にも及ぶという。また、同海域には1平方メートルあたり1,161匹の魚が生息している。さらに、珊瑚礁には波を打ち消す効果があり、まさに天然の壁としての役割も果たしている。
同リゾートのテクニカルディレクター兼支配人のジュリアン・ロドリゲス氏によると、Paradise IslandとCosta Marinaの間に位置するParadise reefは、たくさんの生物が生息する、種類豊富なハードコーラルやソフトコーラルなどの珊瑚礁で、ダイビングを楽しむ人々に大変人気のあるエリアだという。しかし、近年はサマル島近辺の珊瑚礁のほとんどが死んでしまっており、Paradise reefはサマル島に残されたわずかな生きた珊瑚礁のひとつである。
橋の建設に当たり、工事の過程において大量の土砂が発生する。ガータス氏によると、それらの土砂を溜め込むシートの活用も考えられたが、ダバオ市とサマル島間の海峡の潮の流れがとても速いために、それだけでは対策として不十分であるという結論に至ったという。同氏によると、この海峡に土砂が流出した場合、土砂は500メートルほど流され、広範囲に沈殿することが予想されている。この影響は、サマル島から離れたバランガイHizonの海岸にまで及ぶと懸念されている。
当初、橋のサマル島側の終着点として最適であると判断された場所は、既述のリゾート付近ではなかったそうだ。2016年、国際協力機構が行った事業化調査によると、昔の船着場(Bridgeport)が最も終着点として望ましいという結論が出ている。それは、環境への負荷を最小限に抑えるという視点からの判断である。しかし結局、同案は中止となり、同リゾート付近を終着点とすることが決定した。
工事の開始まであと少しではあるが、地主であるロドリゲス氏は、Paradise Reefを守るためなら何でもすると明言している。そこで、橋の建設中止を訴えることはできないものの、代替地としてEl Paril Beach Resortの一部を提供することを考えているという。El Paril Beach Resortからダバオ市までは橋の全長が短くなるため、環境への負荷を抑えることができる。
ロドリゲス氏は「工事はすでに始まっている。そして、この橋は、間違いなく私たちの生活を豊かにする。しかし、その建設のあり方については、細心の注意を払う必要がある。環境へのダメージを最小限に抑え、サステナブルな工事でなければならない。私たちに残された自然を、少しでも守らなければならない」と語っている。
サマル島に、自由に陸路での行き来ができるようになることは大歓迎であるが、サマル島の魅力でもある豊かな自然環境が損なわれることには強い危機感を覚える。そして、壊したものを回復させるには、その何十倍もの歳月が必要になる。人類と自然、その共存の仕方が、今まさに問われている。