【コラム】ABS-CBN放送停止にみるドゥテルテの野望

むしろ、1万人を超えるABS-CBN社の従業員が失業してしまう、という批判の方が共感を呼びやすいだろう。実際、ベリョ労働雇用長官も、翌6日には放送停止になっても従業員が直ちに失業するわけではないとの声明を出して、こうした批判に配慮している。ただし、この問題を、単に報道の自由や従業員の雇用といった視点から見ては、その本質を見損なう。

根源的に言うならば、ドゥテルテがABS-CBN社を攻撃する本当の目的は、フィリピンを100年間にわたって支配してきた伝統的エリートの支配を破壊することにある。ABS-CBN社を所有するロペス家は、20世紀初頭のアメリカ支配期にサトウキビ大農園経営と、アメリカへの砂糖の輸出によって莫大な富を築いた伝統的エリートの末裔だ。アキノ前大統領の母方コファンコ家も同様である。これに対してドゥテルテは、21世紀初頭に、彼ら伝統的エリートを特権の座から放逐しようとしているのだ。ドゥテルテ政権が、マニラ首都圏の水道を経営するアヤラ家などを攻撃しているのも、同じ文脈で理解できる。

ドゥテルテは伝統的エリートを攻撃すると同時に、親しいダバオの華人系財界人と中国資本との関係を軸に、新たなエリート層を確立させようとしているようだ。その代表はデニス・ウイで、マニラやダバオの港湾整備を受注したり、中国電信との共同で第三のインターネット通信社ディトを立ち上げたりしている。スプラトリー諸島における中国との共同資源調査に参加するという話もある。今後ドゥテルテ政権は、ABS-CBN社を売却するよう、ロペス家に圧力をかけていくだろう。その際、新たな経営者として名乗りを上げるのは、ウイではないかと私は睨んでいる。

ビサヤ・ミンダナオ島を中心に展開しているガイサノモールも華僑系がオーナー