【コラム】ABS-CBN放送停止にみるドゥテルテの野望

こうした新旧エリートの攻防は、社会におけるドゥテルテ派と反ドゥテルテ派の対立ともリンクしている。ドゥテルテ派には、21世紀になって社会上昇をしてきた新興下位中間層が多いと感じている。その中心は、全国に散らばる海外出稼ぎ者やその子息たちだ。彼らからすれば、伝統的エリートや反ドゥテルテ派は、自由主義や民主主義の名のもとに自らの特権と既得権益を守り、彼ら新興勢力の社会上昇を妨げようとする「悪しき他者」に他ならない。

最後の放送で自社をライトアップするABS-CBN社

たしかに、これまで100年にわたってフィリピンを支配してきた伝統的エリートに引導を渡すことができれば、深刻な不平等の改善にも寄与するかもしれない。しかし、単に新たなエリート勢力が形成されるだけで、不平等が継続する可能性も高い。ドゥテルテが国民の支持を利用して取り巻きによる新たな支配を確立させるだけで終わるのか、それとも国民がドゥテルテを利用してより公平で機会均等な社会を実現させていけるのかが問われている。