【コラム】セジマかな…サウシマかな…新たな証言を映画のカメラが捉えた瞬間

ぜひ、機会があればこの映画を観ていただきたいが、フィリピン事務所のスタッフたちとともに、ぼくがフィリピン全土の残留2世たちを訪ねる様子をカメラが追い続けている。ある2世の女性は、意識のベールの向こうにあるおぼろげな父親について、頼りなげに言う。「ヤマモト……大工……」

殺害された父の身元捜しを望むヤマモトさん

パラワン島に住むアンヘリータ・ヤマモトさんだ。お父さんは戦時中に地元警察に連行され銃で撃ち殺された。それから父の親族探しはいまもなお続いている。彼らのインタビューを行うぼくの顔が、険しさを増しているのは、彼らがたどってきた人生の辛苦に思いを馳せているのに加えて、実は腰の激痛をこらえているためだ。

翌日からフィリピンロケが始まるという前夜、地元の横浜・野毛で一杯やって帰宅する途中に足をもつれさせて派手に転び、腰をしたたか打ちつけてしまったのだ。腰をコルセットでガッチリと補強して日本を出発したのだが、舗装されていないガタゴト道の衝撃は半端なく、脂汗を流しながら激痛をこらえて旅をしていたことを告白しておきたい。

しかし、もちろんぼくの腰の痛みと残留2世の肉親との別れ、長年回復されずに放置されていた心の痛みは比べようもない。「セジマだったかな……ソジマ…かな……。サウシマかも……」映画の中に、そんな頼りない陳述を繰り返す残留2世のワンシーンがある。ダバオ在住のトマサ・ヘラルデスさん、日本名はマサエさんだ。