【コラム】ダバオのクラフトコーヒーと地鶏のアドボをもてなしてくれたのはシブランの山に残留していた2世のおばあちゃん

私が訪問するたびに、庭で放し飼いにしている地鶏を絞めて、極上のアドボ(酢醤油煮)をふるまってくれるハツエさん。2019年、久しぶりにシブランのハツエさんをたずねた時は、ぼんやりとした表情でこちらを見るばかりだった。そんなハツエさんの目に光が戻ってくるのは、「日本」という単語を耳にした瞬間だ。同年の10月、日本政府に残留日本人二世の救済を訴えるため、フィリピン日系人社会の代表者によって結成された陳情団の日本訪問が計画された。その陳情団のメンバー候補となったことを自宅に伝えに行くと、ハツエさんは、「日本?行きたいよ、いつ、行く?」と興奮し、喜びで目を輝かせた。

数日後、初めての日本への渡航の準備のためにダバオの市街に出たが、慣れないジープニーとバスの移動のためか、道中で倒れてしまった。家族と話したあった結果、やはり高齢のハツエさんに日本訪問は無理だと判断せざるを得なかった。しかし、生きている間に日本人の父の親族が見つかり、悲願だった日本国籍の回復ができたハツエさんは、まだ幸せなのかもしれない。

フィリピンには今も、910名もの残留2世たちが、父の国に自分の存在が認められることを待ち望みながら、人生の最終章を迎えている。彼らの辿ってきた厳しい戦中戦後、そして今の肉声を伝える貴重なドキュメンタリー映画が完成し、戦後75年のこの夏に全国公開される。

「日本人の忘れもの フィリピンと中国の残留邦人」(https://wasure-mono.com/)である。7月25日に東京都中野区のポレポレ東中野で公開、以降、横浜や名古屋、大阪、京都、別府、鹿児島など順次全国公開となる。映画のメインビジュアルとしてポスターにもなっているのが、この赤星ハツエさんだ。まだシブランの山で暮らしていた頃の元気なハツエさんの姿が映画の中に焼き付けられている。

残留者たちの上を流れる時間の速さを改めて思う。

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