【コラム】なぜフィリピン人は「規律」を求めるのか?

フィリピン人が規律を求めるようになった背景には、まず2000年代中頃から続く経済成長がある。莫大な貧富の差は改善しなくとも、多くの人々が不法な生活基盤や政治家のばら撒きに依存せずとも暮らしていけるようになった。かつて政治家は、国民に「豊かさ」を約束した。しかし2016年選挙では、資源の配分を強調したジェジョマール・ビナイは惨敗し、厳格な「規律」を掲げ、犯罪者を殺すと宣言したドゥテルテが圧勝した。社会が豊かになったからこそ、人々は「規律」を支持できるようになったのだ。

ドゥテルテ大統領就任時の警察長官デラロサ氏も規律の象徴として人気が高かった

こうした現象は、地方政治でも生じている。2019年マニラ市長に当選したイスコ・モレノは、「規律」の名もとに露天商を一掃して道路の混雑を解消し、拍手喝采を浴びた。逆に、今年5月ジンゴイ・エストラダ元上院議員が、大量のバグース(魚)を住民に配っていたところ、防疫違反で逮捕された。貧困層への「ばら撒き」によって、50年近くサン・フアン市を支配し、大統領職まで射止めたエストラダ家も、「規律」の時代には見る影もない。